国内初「フルフラット座席」――高知発「フラットン」は夜行バスを変えるのか? 12月運行開始、収益性・安全性の壁とは
フルフラットの収益性分析

筆者が最も関心を持つのは、高知~東京間の片道運賃1万4000円という設定である。24席が満席となれば、
「1便あたり33万6000円」
の収入となる。比較すると、琴平バス(香川県琴平町)の3列シートは変動運賃で片道9000円から1万円程度で、満席時の収入は27万円から28万円にとどまる。フルフラット車両は収入面で優位である。
一方で、日本人男性の身長分布を見ると、180cm以上は7%弱に過ぎない。175cm~180cmの人も6~7人にひとりいるため、180cmに近い乗客には窮屈さを感じさせる。女性の場合は極めて少数で、0.1%から0.3%程度にとどまる。ユニット長が180cmであることを踏まえると、
「身長の高い人の支持」
を得るのは容易ではない。
万人の支持を獲得するためには、余裕のあるフルフラットシートを設けた上級グレードを設定する手もある。高知~東京間のJR普通指定席は片道2万1970円であり、ドリームスリーパーの東京~大阪の価格帯を参考にすれば、上級グレードを2万円程度に抑えることで十分な競争力が生まれる。
さらに、女性専用エリアやトイレ近くの高齢者・障がい者用エリアなど、利用者属性に応じた座席予約も効果的である。快適性重視のクラス分けによってターゲットを拡大し、上級グレードや女性専用エリアで追加料金を設定することも可能である。
体験乗車を発信する層は、YouTubeやSNSのユーザーで、若手が中心である。この層からの支持は、高速バスという特性からも理解できる。ただし、本格運行になると、多様な属性の利用が想定される。出張や単身赴任者の帰省、観光など、用途は幅広い。出張費の抑制は多くの職場で求められ、増えるベンチャー企業や個人事業主にとっても重要である。夜間移動層の多様化にともない、高付加価値なサービスを求める層への販売戦略も検討余地がある。
現状のモノクラスでは、フルフラット車内でパソコンを使って仕事をするのは困難である。スペースの広い上級グレードや、ドリームスリーパーのような個室併用型の追加料金モデルも選択肢となる。
座席数削減による収益性への影響は、まず付加価値の高いシートでエキストラチャージをとる戦略が現実的である。モノクラスからグレード分けに転換すれば、利用者の多様性にも対応できる。
持続可能性の観点では、現行ユニット方式だけで十分か疑問が残る。下段をソファ方式、上段を寝台列車のような上部収納方式にすることで、操作性や整備性、清掃性を高める方法もある。運転士不足が続く現状では、運行コストとして一定の人件費確保も必要であり、整備費低減や保険とのバランスも考慮する必要がある。