「赤ちゃんを守る最後の切り札」──ドクターカーに託された新生児救命、遠隔地で続く終わらない闘いとは

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全国の産婦人科医は減少を続け、分娩施設の6割が空白市町村に集中。NICUは稼働率90%超で逼迫するなか、24時間体制のドクターカーが地域医療の格差是正と新生児救命の最前線を支えている。

長距離搬送と医療負荷

新生児のイメージ(画像:写真AC)
新生児のイメージ(画像:写真AC)

 長野県立こども病院では、1993(平成5)年5月から新生児用ドクターカーを運用している。24時間365日出動可能で、県内のみならず東京都や大阪への長距離搬送にも対応した実績がある。車内には新生児用と小児用の搬送ベッドを搭載し、搬送先に到着した瞬間からNICUの治療を開始できるよう、各種医薬品や医療機器がベッド内に整備されている。携帯電話圏外の山間部でも、広域消防や基幹病院とリアルタイム通信できるシステムを備えている。

 三重中央医療センターでは、1984(昭和59)年からドクターカー「すくすく号」を運用している。こちらも24時間365日稼働可能で、三重県全域と近隣県への搬送に対応している。車内には

・保育器
・超音波診断装置
・人工呼吸器

などを搭載し、搬送中に取得した情報を病院へ迅速に送信できるシステムも整備されている。医療物品費や人件費、運送費は基本的に同センターが負担しており、2019年の維持費は約630万円だった。近年は三重大学病院などが収容先となる場合、搬送費用の一部を負担する仕組みになっている。

 長野県立こども病院のドクターカーは、開院以来、年間約400件の搬送を行っている。長野県は小児人口あたりの重症児受け入れ件数が全国で最も多く、広範囲の地域をカバーする役割が求められている。県内の新生児死亡率は1995年に1000人の出生に対して1.8だったが、2022年には0.4まで低下した。全国平均の0.8を下回る水準であり、大幅な改善が確認されている。

「すくすく号」は、2023年度に県全域で11件の新生児搬送を実施した。重症呼吸障害の新生児搬送が多く、酸素投与率は76%、気管内挿管率は43%だった。救急隊は通常3~4人で活動するが、すくすく号では医師ひとりで搬送することが多く、医師の業務負荷や新生児の重症リスクが高い状況にある。

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