「赤ちゃんを守る最後の切り札」──ドクターカーに託された新生児救命、遠隔地で続く終わらない闘いとは

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全国の産婦人科医は減少を続け、分娩施設の6割が空白市町村に集中。NICUは稼働率90%超で逼迫するなか、24時間体制のドクターカーが地域医療の格差是正と新生児救命の最前線を支えている。

分娩施設の現状と構造的課題

 日本全体で産婦人科医の数は、2022年をピークに減少傾向にある。地域偏在や医師の高齢化に加え、ひとり当たりの分娩数も減少している。

 日本産婦人科医会が2023年に公開した「産婦人科医療施設の動向」によると、2022年の分娩取扱診療所は1135施設、病院は563施設だった。2006(平成18)年と比べると

・診療所:38%
・病院:44%

も減少している。さらに、NHKの2025年調査では、全国約1700市町村のうち、分娩施設が1つもない自治体は全体の60%を超えていた。

 高知県では2024年10月時点で分娩できる医療機関は9施設にとどまり、34市町村のうち5市町村のみが施設を抱えている。県内の2024年出生数は3108人と過去最少を更新した。東部の安芸市にある県立あき総合病院では、

「分娩休止」

の議論も持ち上がった。この病院がなくなれば、妊婦は県中心部まで通わなければならず、遠方では1時間30分以上かかる可能性がある。

 同県では2020年から2025年8月までに、車や自宅での施設外出産が16件発生していた。分娩空白市町村では施設までの距離が遠く、分娩リスクが高まる。秋田大学によると、分娩施設までの距離が1時間を超えると、

・NICU入室率
・新生児の死亡率

が増える傾向がある。全国の施設外分娩は2015年には254件と少なかったが、分娩施設の減少に伴い、今後はさらに増加する見込みだ。

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