江ノ電ファン必聴? 「路面電車が往くこの街で……」 新進気鋭女性シンガー・井上園子が紡ぐ、じっと我慢を超えて夢を引く街の旋律
2025年8月、井上園子が江ノ電沿線を描いたCDシングルを発表した。時速15km前後の路面電車と偶然性を象徴に、効率偏重の都市生活で失われた「ゆっくりとした時間」の価値を再提示し、令和世代の共感を呼んでいる。
“いま”新鮮に響く理由

この曲が2025年に新鮮さを感じさせる理由はふたつある。ひとつは速度に対する価値観の転換だ。現代社会は効率と高速化を追求するが、江ノ電のように「遅さ」を肯定する姿勢が逆説的に新しい。SNSのタイムラインの情報が一瞬で流れ去るなか、ゆっくり進む電車の時間は心を落ち着ける効果を持つ。
もうひとつは偶然を受け入れる余白の存在である。現代社会は結果を数値化し、リスクを排除する傾向が強い。しかし井上の歌は、当たり外れも含めて楽しむ姿勢を提示する。予測できない世界を前提にした柔軟な態度は、未来志向のメッセージとして響く。
これらの要素は昭和フォークの精神を受け継ぎつつ、令和世代のリアルな感覚にフィットする力を持っている。効率偏重の時代にあって、遅さや偶然を肯定する価値観が新たな共感を生んでいるのだ。
井上園子の魅力は、個人的な感情を地域の風景と絡め取る筆致にある。江ノ電が沿線の暮らしを運ぶように、彼女の歌は聴き手の心に日常を運ぶ。そこには自己表現を越えて、街の呼吸を可視化する視座がある。
「路面電車が往くこの街は/いつも最後まで夢見てる」
というリフレインが示すのは、都市と個人が相互に映し合う関係性だ。街が夢を見続けるからこそ、人も夢を見られる。こうした相互作用をシンプルな言葉で提示する井上の筆力は、シンガーソングライターの枠を超えている。