江ノ電ファン必聴? 「路面電車が往くこの街で……」 新進気鋭女性シンガー・井上園子が紡ぐ、じっと我慢を超えて夢を引く街の旋律

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2025年8月、井上園子が江ノ電沿線を描いたCDシングルを発表した。時速15km前後の路面電車と偶然性を象徴に、効率偏重の都市生活で失われた「ゆっくりとした時間」の価値を再提示し、令和世代の共感を呼んでいる。

都市の“ゆっくりした脈”を可視化する乗り物

江ノ電(画像:写真AC)
江ノ電(画像:写真AC)

 路面電車というモチーフを通じてまず浮かび上がるのは、都市が秘める“ゆっくりした脈”だ。

 高度な交通網に支配された首都圏では、移動は効率化の象徴として語られがちだが、江ノ電の速度は平均時速22km。この緩慢さは不便と背中合わせでありながら、海岸線に沿って走る風景を“移動”から“経験”へと変換する。井上が歌詞に刻む

「いつも最後まで夢見てる」

という言葉には、こうした時間の厚みを享受する姿勢が透けて見える。ここで重要なのは、江ノ電が一般的な交通手段を超え、地域の物語そのものを運んでいる点だ。

 江ノ電は、神奈川県藤沢市の藤沢駅から鎌倉市の鎌倉駅までを結ぶ全長10km・全線単線の鉄道路線で、併用軌道区間を含む路面電車的特徴を持ち、1902(明治35)年の開業以来沿線開発や観光ブームで発展。現在はICカード対応やCTC導入など近代化を進めつつ地元密着型の観光鉄道として親しまれている。

 100年以上にわたり線路沿いに営まれてきた人々の暮らし、夏季の観光需要、冬の静寂──それらが季節のうつろいとともに刻み込まれている。井上が表現するのは、わかりやすいノスタルジーではなく、日常の足元に潜む物語の層を掘り起こす行為である。

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