「紙の切符」路線に全国ICカード導入は正解なのか? 年間1.5億円の維持費負担と人口減少の壁――群馬私鉄の現実から問う

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群馬県の中小私鉄3社は2025年現在も全国交通系ICカード未導入で、乗客利便性と経営効率の課題を抱える。上毛電鉄は国のMaaS推進事業に選定され、低コストIC決済導入を目指すが、年間1億5000万円に及ぶ維持費問題や人口減少下での持続可能性が依然厳しい。ビッグデータ活用と地域連携による合理化が今後のカギとなる。

中小私鉄のキャッシュレス格差

上信電鉄(画像:写真AC)
上信電鉄(画像:写真AC)

 上毛電鉄は一から仕組みを構築するという課題に直面している。そもそもODデータはあくまで副産物として得られるものだ。キャッシュレス決済を導入した結果として、利用者の行動データが得られる。このデータを経営改善に活用する動きは交通業界に限らず広がっている。

 しかし、最初からODデータ収集を目的にキャッシュレス決済を導入するのは野心的な挑戦でもある。上毛電鉄のプロジェクトが成功すれば、上信電鉄やわたらせ渓谷鉄道にもよい影響を与えるだろう。一方で、期待通りに進まなければ、その影響が両者に悪影響として波及する可能性もある。

 2025年2月12日に開催された第5回上信電鉄沿線地域交通リ・デザイン推進協議会の議事概要には、中小交通事業者の厳しい経営実態を示す有識者の発言が記録されている。上信電鉄代表取締役社長の木内幸一氏はこう語っている。

「今後の取組みの方向性のうち、利便性向上のために、キャッシュレスに取り組んでいくことが重要であると考えている。しかし、キャッシュレスは初期投資以外にランニングコストが莫大であり、他鉄道では年間1億5千万円と聞いている。現状の経営状況では、ランニングコストをカバーすることが難しい。初期投資やランニングコストの低いシステム導入に向けて、調査・研究して、沿線で利用しやすいようにしていきたい。そのような設備投資が人口減少下において利用者を増やすために必要である」(第5回上信電鉄沿線地域交通リ・デザイン推進協議会議事概要―群馬県)

 木内社長が「現状の経営状況では、ランニングコストをカバーすることが難しい」と明言している点は極めて重い。実際、上信電鉄は路線バスには地域連携ICカード『nolbe』を導入しているが、鉄道では未導入だ。その理由はランニングコストの高さにある。

 日本の私鉄においては、キャッシュレス決済のランニングコストを賄える余力がある事業者と、そうでない事業者の格差が非常に大きい現実がここに示されている。

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