「紙の切符」路線に全国ICカード導入は正解なのか? 年間1.5億円の維持費負担と人口減少の壁――群馬私鉄の現実から問う
ODデータ取得の最前線プロジェクト

2025年5月、国土交通省は「令和7年日本版MaaS推進・支援事業」として、全国29件のプロジェクトを選定した。そのひとつに、「前橋市MaaS環境整備事業」として上毛電鉄の取り組みが含まれている。以下に、その概要を確認する。
●課題
・地域住民の重要な交通の足である上毛電気鉄道について、原則紙チケットの利用になっているため、ODデータが取得できず、行動分析ができない
・行動分析ができないため、交通計画等で適切な計画を立てるのが困難
●プロジェクト概要
「交通サービスの高度化(マルチモーダルかつシームレスな移動体験の提供)」
・GunMaaSを活用し、上毛電気鉄道でのデジタルチケットサービスを構築する。具体的には、上毛電気鉄道の車両等に交通系ICユニットを搭載し、交通系ICカードでの決済・認証サービスを実現できる。ODデータ及び属性情報の取得が可能となるため、IC企画券の造成や割引属性の対象等を検討する上でのデータを取得できる。
・交通系ICユニットは地域連携バスユニットを採用することで、自動改札機と比べて安価な仕組みでサービスを実装する。
[モビリティ・データの取得と活用]
・上毛電気鉄道の交通系IC認証実績をID-PORTに蓄積する機能を構築する。当該実績を踏まえ、今後の割引率等、サービス内容のブラッシュアップを検討する。さらに、持続可能な公共交通社会の構築に向け、例えば特定居住地や年齢に応じた運賃の助成割引など、鉄道利用の活性化についても検討する。
[地域交通政策等との連携]
・上毛電気鉄道のODデータを分析し、結果を交通計画の評価に生かすことを検討する。
・真に助成を必要とする市民に交通助成サービスを享受できる仕組みを構築し、公共交通利用機会の創出を図ると同時に、手法をデジタル化することで事務負担軽減とデータ取得環境構築を図る。
(令和7年度 日本版MaaS推進・支援事業29事業について-国土交通省)
一言でいえば、ODデータ(発着地データ)が存在しないため、それを取得する目的で全国交通系ICカード決済を導入する――である。これが上毛電鉄の現在地である。導入費用には国の補助も活用される予定で、同社は2025年冬にもICカード対応を開始する見通しだ。
しかし、全国交通系ICカードの導入が、地方の交通事業者に重い負担を強いてきたことは、すでに明らかである。2023年には、熊本県内の複数の交通事業者がICカードの取り扱いを一斉に終了した。この件は全国的にも報じられ、システム更新にかかるコストの大きさが議論を呼んだ。
たとえ導入時に国の補助があっても、5年後、10年後の維持費用を考えれば、本当に割に合うのかという疑問は残る。
もちろん、上毛電鉄の事業計画資料には、コスト削減への工夫も見られる。交通系ICユニットには「地域連携バスユニット」を用い、自動改札機よりも安価な方式でのサービス実装を目指している。ランニングコストを可能な限り抑える姿勢は読み取れる。