自転車用「電動改造キット」急増? 設置わずか60秒で時速32km──天使か悪魔か? 事故リスクの現実を考える

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ホンダが終戦直後に外付けモーターで歩み始めた電動自転車の歴史は、技術革新と制度の狭間で揺れる。中国で3.4億台超の普及を見せる一方、日本では法整備の遅れが安全性と市場の拡大に壁をつくる。電動コンバージョンキットの普及は都市交通と居住形態を変える潜在力を秘めるが、規制のグレーゾーンとインフラ整備の課題が今後のカギとなる。

3車種限定の市場投入

SmaChari(画像:本田技研工業)
SmaChari(画像:本田技研工業)

 電動コンバージョンキットは、日本の自転車文化と根本的に相いれない可能性がある。日本の自転車文化は、地域に根差した自転車販売店とともに発展してきた。どの町にも1軒は存在する自転車店が、その中核を担ってきた。一方で、欧米の自転車文化はDIYの延長にある。米国や欧州では、個人が改造した自転車がネガティブに評価されることは少ない。文化的な前提がそもそも異なる。

 ホンダが展開する電動アシストユニット『SmaChari(スマチャリ)』は、日本の自転車文化を前提とした設計思想に立つ製品だ。既存の自転車にモーターとバッテリーを取り付け、スマートフォンアプリで走行を管理・モニタリングできる仕組みを採用している。

 公式サイトでは「さまざまな自転車を電動アシスト・コネクテッド化する技術」と謳っている。ただし、そのすぐ下には

「※ユーザー様へは対応車種への取付済販売となります」

と明記されている。この一文が意味するのは、『SmaChari』が現時点でワイズロードの販売する3車種にしか装着できないという事実だ。そのうち1車種は2025年夏に登場予定であり、個人によるDIYでの取り付けは想定されていない。

 仮に個人での設置を許容すれば、日本全国の膨大な自転車をそのまま電動アシスト化できる可能性が開かれる。それでもホンダがDIYによる普及を避け、販売店経由にこだわるのは、安全性への確証が得られていないからだ。

『SmaChari』は、前述の『LIVALL PikaBoost』のように自転車を電動バイク化する製品ではない。あくまで人力を補助する「電動アシスト」機能にとどまる。それでも、安全性の担保には高度な検証が求められる。これは自転車部品メーカー、車体の安全認証を行う団体、自転車保険を提供する保険会社など、複数のプレイヤーを巻き込む必要がある領域である。

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