奈良が「オワコン」なんて誰が言ったんだよ(怒)

キーワード :
世界遺産と古都の風情を擁しながら、なぜ奈良は“通過都市”であり続けるのか。観光資源の豊富さに反して、受け皿や戦略の不備が浮き彫りになる。京都との比較から、奈良観光の根本的課題を探る。

観光客数、京都市の「4分の1」

東大寺の大仏(画像:写真AC)
東大寺の大仏(画像:写真AC)

 東大寺の大仏、春日大社、奈良公園の鹿。どれも日本を代表する観光資源だ。奈良市は、こうした資源に支えられ、多くの人に親しまれてきた。

 だが、世界遺産級の文化遺産を抱えながらも、奈良の観光は「オワコン」ともいわれ始めている。ネット上では、観光地そのものの評価は高いが、

「夜8時には店が閉まる」
「行きたいと思える店がない」
「大阪の隣なのに鹿せんべいしか買えない」

といった辛らつな声も目立つ。果たして、奈良の観光は本当に終わってしまったのか。

 そうではない。問題の本質は、奈良市だけでなく、奈良県全体の観光資源を活かしきれていないことにある。奈良には、市域を超えて多様な観光地が存在する。それが十分に連携されていない。

 奈良観光は、まだまだ成長の余地がある。むしろ、今後の展開次第で大きな可能性を秘めた分野だ。今回は、その将来性について論じていく。

観光資源密集が生む高満足度

興福寺(画像:写真AC)
興福寺(画像:写真AC)

 まず、奈良市と京都市の観光データを見てみよう。比較には『2023年 奈良市観光入込客数調査』と『2023年 京都観光総合調査結果』を用いている。

●観光客総数
・奈良市:1219万9000人(前年比31.3%増。パンデミック前の約70%)
・京都市:5028万1000人(奈良市の約4.1倍)

●宿泊客数
・奈良市:174万8000人(パンデミック前の水準まで回復)
・京都市:1474万5000人(奈良市の約8.4倍)

●日帰り客数
・奈良市:1045万1000人(2019年の1567万3000人から約33.3%減)
・京都市:3553万人(奈良市の約3.4倍)

●観光消費額
・奈良市:994.7億円
・京都市:1兆5366億円(奈良市の約15.4倍)

こうして見てみると、奈良市は観光地として一定の規模を持つものの、京都市に大きく水をあけられている。

 とくに注目すべきは消費額の差だ。観光客数の差(約4.1倍)に比べ、消費額の差(約15.4倍)がはるかに大きい。単純計算で、京都の観光客ひとりあたりの消費額は

「奈良市の約3.8倍」

観光客数の差以上に、消費行動に大きな開きがある。もちろん、これだけ差があるからといって、奈良市に魅力がないわけではない。むしろ、独自の強みがある。

 奈良市には、

・東大寺
・春日大社
・興福寺

といったユネスコ世界遺産が集中している。いずれも奈良公園周辺という、比較的コンパクトなエリアに位置している。この地理的特性により、京都のように

「観光地間の移動」

に長い時間を取られることがない。効率的に、充実した観光体験ができる。実際、奈良を訪れた観光客の満足度は非常に高い。

全てのコメントを見る