大河ドラマ「べらぼう」で吉原が観光地化? 遊女、娼婦、芸者…「美化された歴史」の裏で聞こえる骨肉の叫び、「脱色」観光の危険性を考える
吉原観光の新潮流

現在放送中のNHK大河ドラマ『べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~』が注目を集めている。江戸時代の出版文化を支えた蔦屋重三郎(演:横浜流星)を主人公に据え、吉原の活況や遊女たちの姿を生々しく描く本作は、第1話での裸の遺体描写が衝撃を与え、大きな反響を呼んだ。
こうした大河ドラマによる観光客増加を見込み、東京都台東区の区民会館には2億7000万円を投じて大河ドラマ館が開設された。館内には、主人公が働く茶屋「蔦屋」の再現セットや、吉原の大通りを背景に当時の高位の遊女「花魁(おいらん)」の衣装などが展示されている。
さらに、台東区役所内に事務所を構える「台東区大河ドラマ『べらぼう』活用推進協議会」の主導により、大門前には観光案内や土産物販売を行う「江戸新吉原耕書堂」も開業した。『読売新聞』では、この施設を率直な言葉で紹介している。
「特殊な店が多い現在の姿は紹介しにくいと思いながら訪れたが、蔦重の店を模した「江戸新吉原耕書堂」という観光拠点が出来ていて驚いた。官民で作る台東区大河ドラマ「べらぼう」活用推進協議会が、この場所が江戸文化の中心で流行の発信地だったことを知ってもらおうと物産販売などを行う店舗を開いた。来年1月までの期間限定だが、地元町会が運営し予想を超す観光客が来ているという」(『読売新聞』2025年2月22日付夕刊)
吉原が観光地として注目を集めるのは、これが初めてではない。数年前には、アニメ『鬼滅の刃』の「遊郭編」の放送をきっかけに話題となり、今回も大河ドラマ『べらぼう』によって吉原大門跡などの史跡情報が広く流布されている。
メディアによる取り上げが歴史への関心を高めるのであれば、歓迎すべきだろう。しかし、この土地の歴史を語る上で避けて通れないのが、吉原が持つ
「華やかさと闇の二面性」
をどう伝えるかという課題だ。例えば、2024年に東京芸術大学で開催された「大吉原展」では、学術的に丁寧な展示内容であったにもかかわらず、ピンク色のロゴや「江戸アメイヂング」という広報表現が
「無神経」
と批判を受けた。このような背景もあり、台東区の観光施設では「江戸文化の発信地」としての側面を強調しつつも、パネル展示では「多くは前借金返済に縛られた女性たち」と説明するなど、表層的な華やかさと過酷な現実のバランスに苦慮する様子がうかがえる。