「ごめん、先に○○行ってるね」 消えた駅の伝言板! 昭和の恋はなぜスリリングだったのか?
かつて駅の改札付近に存在した伝言板。携帯電話の普及とともに姿を消したこの「待ち合わせの場」は、移動する人々の絆とドラマを映し出していた。現在、デジタル化が進むなかで、失われたものとは何か、駅の伝言板が描いた恋愛の風景とその変化を探る。
伝言板が生んだ恋愛の確率論

伝言板には、届かなかったメッセージも数多くあった。相手が別の改札から出てしまったらどうするのか。書き込みに気づかないまま帰ってしまったらどうなるのか。あるいは、時間とともに上書きされ、メッセージが消えてしまったら?
こうした偶然や不確実性が、当時の恋愛に独特の緊張感をもたらしていた。確実に届く保証はない。それでも伝えようとする行為そのものに、恋愛の切実さが宿っていた。
一方で、すれ違いが悲劇を生むこともあった。約束の時間になっても相手が現れず、伝言板にメッセージを残して去ったものの、それが相手の目に入らなかったとしたら? 相手は「待っても来なかった」と誤解し、別れを決意するかもしれない。
伝言板は、恋愛を成就させる場であると同時に、すれ違いを生む場でもあった。そして、それこそが、移動を前提とした恋愛の宿命だった。