ジェンダー平等について「もう聞き飽きた」というなら、男女で“通勤経験”が全く異なることを考えてほしい
モビリティのジェンダー格差
「女性の社会進出」と聞いて「もう聞き飽きた」という人もいるかもしれない。あるいは、その歩みの遅さにため息をついている人もいるだろう。
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多くの場合、「女性の社会進出」は雇用や管理職に占める女性の割合の増加を指している。また、ジェンダー平等を推進するための標語である以上、その重要性は疑いようがない。
しかし同時に、都市や地域のさまざまな物理的空間に、具体的な身体をもった存在として女性が「進出」する姿は見えにくくなってはいないだろうか。
例えば、女性が仕事を通じて階層的な上昇を実現しようとすれば、とにかく職場にたどり着かなければならない。住宅を出て、地域の街路を通り、公共交通を使い、繁華街やビジネス街との間を行き来するあの面倒な通勤通学――「何を当たり前のことを」と思うかもしれないが、「住宅と職場」の間のモビリティ経験は男女で異なる。
都市は必ずしも女性にとって安全に移動できる空間ではない。移動する人が「女性」とみなされることによって、モビリティの時間と空間に余分なリスクやハードルが発生することがあるからだ。
つまり、「女性の社会進出」とは、階層的な移動の問題だけでなく、身体的な移動の問題でもあるのだ。それはまた、都市空間や地域社会における男女の住みわけが徐々に曖昧になっていく過程でもある。
例えば、社会学者の磯村英一(1903~1997年)は、都市空間を住宅などの「第一空間」、職場などの「第二空間」、その間にある交通や繁華街などの「第三空間」にわけている。
近代社会では都市化が進み、住宅地は郊外化している。これは、「第一空間」と「第二空間」が機能的・空間的に離れ、その間にある「第三空間」が拡大する――通勤時間が長時間・長距離になり、繁華街が発展する――プロセスとして理解することができるだろう。