大阪・黒門市場はなぜ「ぼったくり商店街」と呼ばれるのか? 観光立国政策が生んだ地元離れと脆弱性の正体【リレー連載】ビーフという作法(3)
批判点1「商店街が仕掛けたインバウンド」

第一に、記事に記されている「自然発生的な外国人観光客の増加」という説明が不十分だと感じる。
記事では、黒門市場で外国人観光客が増えた理由について、黒門市場商店街振興組合(以下、振興組合)の関係者のコメントを引用して次のように説明している。
「黒門市場はシャッター商店街になってしまうところ、ほかの商店街とは違う復活の仕方をしたんです。自然発生的に外国人のSNSや口コミで広がってきた。今でもリピーターは多いですしね。我々としては積極的に外国の方を呼び込んだわけではないんです」
この説明にはもう少し補足が必要である。確かに、黒門市場で外国人観光客が増え始めたのは、自然な流れとして捉えられる部分がある。
黒門市場で外国人観光客が目立ち始めたのは2011(平成23)年頃であるが、実際には2000年代後半から中国の経済成長により、来日する中国人観光客の数は増加していた。
しかし、2010年の尖閣諸島沖漁船衝突事件や2011年の東日本大震災を契機に、一時的に観光客数は減少した。その後、
・近畿運輸局
・大阪府
・関西国際空港会社
などが中国人観光客をターゲットにしたPR活動を強化し、格安航空会社(LCC)の就航なども手伝って、関西地域に訪れる中国人観光客の数は急増した。
この流れに対し、振興組合はインバウンド需要を見越して、積極的にアプローチを始めた。実際、近畿経済産業局のサイトに掲載された資料によると、2017年には同組合が行った働きかけの詳細が記録されている。
「黒門市場商店街の売上は、かつては料亭や小料理屋などへの卸や地域住民によるものが大半であった。しかし、飲食店の衰退とともに売上・来街者数ともに減少し、リーマンショック後は来街者数が過去最低となっていた。その後、円安やビザ緩和政策、関西国際空港へのLCC の就航などにより、平成23 年頃から大阪市内を訪れる外国人観光客が増え始めた。商店街では、黒門市場への来街者数の回復を図るため、これら外国人観光客をターゲットとした戦略を進めることとした」
振興組合が外国人観光客、特に中国人観光客をターゲットにした背景には、いくつかの要因がある。黒門市場の南端に位置する堺筋には、家電量販店をはじめとする免税店が立ち並び、その周辺には多くの中国人観光客が訪れていた。結果として、免税店から流れてきた中国人観光客が黒門市場にも足を運ぶようになった。この新たな客層を引き寄せるために、振興組合は次のような施策を実施したと資料に記載されている。
「外国人観光客の誘致に向け、まずは外国語表記の横断幕や大型提灯の設置、多言語対応の商店街マップの作成を行い、受入態勢を整えた。商店街のホームページもリニューアルし、新たに英語、中国語、韓国語表記に対応。また、市場の各店舗を紹介する小冊子も日本語版、英語版、中国語(繁体字)版を作成し、市場内や近隣のホテル、観光案内所など、180カ所で配布した。このほか、商店街振興組合としてのフリーWi-Fi 環境の整備や、無料休憩所とトイレの設置、銀聯カードの取扱いなどを行うとともに、各店舗のスタッフを対象とした実践的な英会話教室を毎週実施している」
これらの取り組みの結果、2015年頃には、中国人だけでなく、韓国人やタイ人の観光客も増加し、黒門市場はインバウンド需要の影響で再びにぎわいを見せ、メディアにも取り上げられるようになった。
当初、黒門市場には免税店に訪れた外国人観光客が自然に立ち寄るだけだったが、その後、インバウンド需要の拡大とともに商店街が活気を取り戻す過程には、組合の周到な準備と積極的な働きかけがあった。具体的な施策としては、
・多言語対応
・Wi-Fiの整備
・銀聯カードの導入
などが挙げられる。最初の外国人観光客の来訪は自然発生的だったかもしれないが、その後の増加は計画的な努力の結果であり、決して偶然の産物ではない。このような背景が『現代ビジネス』の記事には記載されておらず、読者に誤解を与える可能性があると考えられる。