大阪・黒門市場はなぜ「ぼったくり商店街」と呼ばれるのか? 観光立国政策が生んだ地元離れと脆弱性の正体【リレー連載】ビーフという作法(3)
批判点3「不満がそのまま記事化」

第三に、「ぼったくり商店街」というイメージがメディアによって作られた虚像であるという主張について、少し考察してみたい。『現代ビジネス』の記事では、振興組合関係者が次のように述べている。
「SNSやメディアでは『ぼったくり』って言われますけどね、全部の店がそうじゃないんです。でも、報道では『黒門市場』とひとくくりにされる。まだ『黒門の〇〇という店が高い』と言ってくれた方がましや」黒門市場は、江戸時代後期に誕生した市場で、明治から太平洋戦争を経て、現在まで大阪の台所として有名な商店街である。通りには150軒ほどの店が並び、青果店から魚屋、食肉店まで幅広いラインナップの店が並んでいる。実は、この昔ながらの商店街が近年、「インバウンド向け観光地」としてにわかに注目を集めている。華々しい側面もある一方で、どうやらその姿は報道が誇張した面も多分にあるらしい。今回は、そんな黒門市場の「メディアが作り出した」虚像と実像をお二人の話から紐解いていく」
この文章が記されたページの最下部にある、次ページへのリンクには「取材拒否しても勝手に記事を書かれる」と記されている。少し気になる表現だが、何があったのか読み進めると、次のような内容が続いている。
「不満を漏らすのは、「インバウンド向けのぼったくり商店街」という一方的なイメージがメディアを通して広まったこと。特に、センセーショナルな印象を付けようとする多くのウェブメディアによって、一部の店舗の様子が誇張されて報道された。(中略)「そういうSNSの投稿を見て勝手に記事を書かれるんです。この間もあるメディアから一回電話がかかってきて、『インバウンドについての取材はお断りしてます』と言ったのに、結局その話も含めて書かれました」
要するに、取材を断られた事実がそのまま記事に反映されたということだ。それに対して、振興組合の関係者が不満を示しているようだ。
話題になっているのは、『週刊ポスト』2024年6月21日号に掲載された「なにわの台所黒門市場がインバウンド特需で分裂危機!」という記事である。この記事では、振興組合に取材を申し込んだ際に、「インバウンドに関する記事の取材はすべてお断りしている」との回答があったことが記されている。
取材を断られることはよくあることだ。この場合、記事内で「お答えできない」といった断りの言葉を引用し、取材を受けなかったこと自体を明記するのが一般的だ。それを避けると、読者から「なぜ重要な部分に取材をしなかったのか」と疑問を抱かれ、記事の信頼性に影響を及ぼす恐れがある。
この記事では、「黒門市場の“メディアが作り出した”虚像と実像」という書き手の主張を補強するために、振興組合関係者が語った「取材を断ったら記事にされた」という事実が紹介されているが、その内容があたかもメディアの意図的な印象操作のように伝えられている。
書き手はこれまでに多くの記事を執筆してきた経験があり、取材を断られた場合の書き方については十分に理解しているはずだ。取材拒否に関しては、記事作成の基本にのっとり、その事実を適切に記載するのが一般的だ。
黒門市場はインバウンド観光客の増加によりにぎわいを見せているが、その一方で深刻な問題も抱えている。
・自然発生的に増加した観光客という側面
・高額商品の販売が常態化している現状
・メディアとの摩擦
これらの背景には、より大きな構造的課題がある。それは、黒門市場の変質が政府主導の「観光立国」戦略によって推し進められてきたという現実だ。