大阪・黒門市場はなぜ「ぼったくり商店街」と呼ばれるのか? 観光立国政策が生んだ地元離れと脆弱性の正体【リレー連載】ビーフという作法(3)
批判点2「ぼったくり価格は一部か」

第二に、組合が否定する「ぼったくり商店街」という評価について検証したい。
黒門市場で価格が高騰し始めたのは、2011年頃、イートインスペースを備えた店舗が登場したことがきっかけだ(どの店舗が最初かははっきりしていない)。これらの店舗が外国人観光客に人気を集めると、同じような営業手法を取り入れる店舗が次々に現れ、市場内に広がっていった。 当時、商店街の関係者は
「黒門市場は生鮮食品の店が多く、食べ歩きにはもってこいの商店街。彼らのニーズともうまく合致した」(『関西ウォーカー』2018年7月31日号)
と話している。こうしたイートインでの販売が行われるなかで、黒門市場の店舗は外国人観光客が
「本当に良いものにはお金を惜しまない」
という傾向を捉え、価格設定を行った。そして、この価格設定は市場の期待通りの効果を上げた。『月刊レジャー産業通信』2017年4月号の記事は、当時の状況を次のように伝えている。
「食べ物は焼成済みであったり、生ものは店内で焼いて提供する。一様に価格は高く感じられるが、これらがどんどん売れていく」
記事に掲載された写真では
・えび塩焼き1500円
・松阪牛串3000円
といった価格が確認できる。
では、こうした価格設定は単なる「ぼったくり」なのだろうか。この点について、円安による外国人観光客の増加を取り上げた『産経新聞』2024年3月10日付の記事が参考になる。
「生ガキ5個4千円、ウニは2千円超…。「なにわの台所」として知られる黒門市場(大阪市中央区)に軒を連ねる鮮魚店の店先では、食べ歩きを楽しむ外国人がカキなどを購入し頬張っていた。「日本人はぼったくりと感じるかもしれないが、外国人は自国よりも安いと喜んで買ってくれる」。カキを販売する鮮魚店の女性は苦笑しながら話した。一度に3万~4万円を消費する訪日客グループもいるという」
注目すべきは、店舗側が「日本人はぼったくりと感じるかもしれない」と認識している点である。つまり、黒門市場では、外国人観光客をターゲットに、普段の地元客には高価格と感じられる商品を提供し、そのことで利益を上げてきたことが伺える。これは一部の店舗に限らず、ここ10年以上、市場全体が高価格帯で収益を上げてきたという現実がある。
もともとは地元住民向けに営業していた商店街で、例えば「松阪牛串3000円」のような高額商品が登場すれば、「外国人観光客相手に高価格な商売が行われている」といった批判が起こるのは自然な流れだった。その結果として、その印象が強く広まり、黒門市場のイメージとして定着してしまったことが問題である。
なぜそのような印象を防ぐことができなかったのか――。それは、外国人観光客向けの営業に力を入れるあまり、地元住民の足が遠のいてしまったためだといえる。
黒門市場では、外国人観光客の増加が地元民の利用を圧迫するという懸念が早くからあった。前述の2017年の資料でも、
「現在はインバウンド需要の増加で盛り上がってはいますが、その反面、日本人のお客様、特に近隣の方々にとっては、昔のような買い物がしづらくなり、地域住民の客数は減少しています。今後は、どうすれば近隣のお客様にもまた来ていただき、快適にお買い物をしていただけるのかが、最大の課題です」
と記されている。また、『関西ウォーカー』2018年7月31日号で取材に答えた振興組合の関係者は
「(地元民が利用しくい状況を)どう打破していくかが今後の課題ですね」
と述べている。
しかし、続く資料を見ても、地元住民の来訪を再び促進するための具体的な方策は見当たらない。もちろん、現在でも地元住民向けのサービスやイベントは完全にないわけではない。しかし、インバウンド需要の拡大にともない、地元住民の来訪を維持するための効果的な対策が十分に講じられなかったことは事実である。