大阪・黒門市場はなぜ「ぼったくり商店街」と呼ばれるのか? 観光立国政策が生んだ地元離れと脆弱性の正体【リレー連載】ビーフという作法(3)
観光立国政策の影響

黒門市場はもともと、地元の料亭や小料理屋への卸売りと地域住民の利用によって成り立っていた。しかし、飲食店の衰退とともに売り上げや来街者数が減少し、2008年のリーマンショック後には来街者数が過去最低を記録した。
この状況を受けて、商店街では「歳末大売り出し」や「100円商店街」といった従来の取り組みを行ったほか、「黒門セレクション」として各店が厳選した商品を販売する試みも行われたが、期待したほどの成果は得られなかった。
そのようななか、外国人観光客は黒門市場にとって希望の光となった。インバウンド需要の拡大を後押ししたのは、関西国際空港へのLCCの就航や、それにともなう外国人観光客の増加だけではない。政府が進めていた観光立国政策も大きな影響を与えていた。この政策は、地域に外国人観光客を呼び込むために、従来の商売のやり方を見直し、インバウンド向けに再編するという大きな転換を求めるものだった。
例えば、2019年に行われた「第32回観光戦略実行推進会議」で観光庁が提出した資料には、こうした方針が示されている。
・飲食店や商店の多くは、訪日外国人旅行者のニーズに対応できていないのが現状。地元のものを昔ながらの売り方で売っていては、訪日外国人旅行者に見向きもされない
・実際に訪日外国人に消費していただくためには、いわゆるインバウンドベンチャーの革新的なサービスも活用しつつ、地域ぐるみで、訪日外国人旅行者のニーズに合った、「売れる商品・サービス」の提供の仕方を工夫することが必要不可欠
このような方針のもと、黒門市場は国の支援を受けて、トイレや多言語案内、無料Wi-Fiの整備などを行い、成功した事例として紹介されている。この背景には、黒門市場の変貌を促した国の観光政策があったことがわかる。