運賃交渉すれば“村八分”にされる? 荷主を過剰に気遣う中小運送の社長たち、本当に守るべきは誰なのか?

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現在、運送会社にとって運賃の値上げ交渉は避けられない状況だ。しかし、国交省の調査によると、運送会社のうち約13社に1社は、荷主への配慮から運賃交渉をためらっているという結果が出ている。

運賃値上げの壁、田舎のしがらみ

物流トラック(画像:写真AC)
物流トラック(画像:写真AC)

「運賃交渉なんてできませんよ。やったら、私は“村八分”にされますから」

と、東北から関東への青果輸送を行っている運送会社の社長(A社長)の言葉に、筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)は驚いた。

この話は、2024年の夏前に聞いたものだ。世間話のつもりで「社長、運賃交渉はうまくいっていますか」と尋ねたところ、A社長はこう答えたのだ。

 驚いた筆者に、A社長は説明してくれた。荷主である農家は、仕事以前に地域の顔見知りであり、互いに懐事情を何となく察しているという。野菜の種や肥料などの価格も上がっており、農家も経営が苦しいと感じている。

「そんななかで、ウチだけ運賃を値上げしてみなさいよ。あっという間に“村八分”ですよ」

とA社長は嘆いた。

「それなら、手積み手卸しの解消なんて相談できないですか」と筆者が聞くと、A社長は苦々しげに答えた。

「農家は、高齢者ばかりですからね。あの人たちに『積み込みを手伝え』なんていえませんよ」

 A社長によると、「物流の2024年問題」を理解している協力的なJAの若手職員が積み込みを手伝ってくれることもあるそうだ。しかし、JAも人手不足なので、いつも手伝ってくれるわけではない。

「でも、A社長のところって、ドライバーの労働時間もコンプライアンス違反になっている状態ですよね。それに運賃の値上げもできず、ドライバーの給料も上げられないとなると、ドライバーが辞めてしまうんじゃないですか」

と筆者は聞いた。A社長はこう答えた。

「しょうがないですよ。むしろ、ドライバーが逃げ出して会社が経営できなくなり、廃業すれば、農家の人たちも納得してくれるんじゃないですか。それに、少なくとも“村八分”にされる心配はなくなります」

田舎のしがらみというのは、これほどまでに重いものなのだろうか。筆者には、ちょっと想像がつかない世界だった。

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