黒字経営も、いまだ高い鉄道収入への依存度【短期連載】東京メトロ、破られた沈黙(3)

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東京メトロが10月23日に上場し、初値は1630円、時価総額は9470億円に達した。そのなかで、豊洲から住吉までの有楽町線と、白金高輪から品川までの南北線の延伸計画が進んでいる。2030年代半ばの開業を目指し、国と東京都が株式の半数を保有しながら、公共性と民営化の両立を図る挑戦が始まった。鉄道収入が減少傾向にあることが懸念される中、株主還元や新線建設の戦略が、未来の公共交通に大きな影響を与えることになる。

株式売却の狙い

有楽町線延伸計画(画像:江東区)
有楽町線延伸計画(画像:江東区)

 こうしたなか、国土交通省では2021年3月に「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について」の取りまとめを公表、ここでは、新線建設にあたっての東京メトロの役割を示した上で、株式売却に関して次のような方針が示された。

 このような状況のなか、国土交通省は2021年3月に「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について」の取りまとめを発表した。ここでは、新線建設における東京メトロの役割を明示し、株式売却に関する方針が示された。

「東京メトロの完全民営化の方針は、既にこれまでの累次の閣議決定や東京地下鉄株式会社法において規定されているところである。東京メトロ株式の上場は、東京メトロ完全民営化の効果を最大限発現させるためのものであり、より多様な株主を受け入れることによる多角的な事業運営を通じて、利用者サービスの更なる向上を図る観点や、経営のレジリエンスを高める観点、そして企業価値の向上を図る観点からも進めていく必要がある。また、復興財源確保法において国が保有する東京メトロ株式の売却収入を復興債の償還費用への充当期限が令和9年度と規定されているところ、復興財源を確保し、将来世代に負担を先送りしないためにも、株式売却を早期に進めていく必要がある」

 ここでは、国と東京都が当面の間、株式の半分を保持し、影響力を維持することが保証されている。この方針は、公共性を保ちながら経営の効率化を図る巧妙な戦略を示している。国と東京都が株式の50%を持つことで、公共交通としての責任を果たしつつ、民間の経営手法を取り入れて効率化を目指している。

 同時に、東京メトロは新規株式発行による資金調達を行い、新線建設を債務を増やさずに進める体制を整えた。これにより、事業の拡大と財務の健全性を両立させることができる。

 さらに、現在の株式市場の好調は、国と東京都にとって株式売却の絶好のチャンスとなっている。これは

・公共資産の効率的な運用
・震災復興資金の確保

というふたつの課題を同時に解決する機会となっている。

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