黒字経営も、いまだ高い鉄道収入への依存度【短期連載】東京メトロ、破られた沈黙(3)

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東京メトロが10月23日に上場し、初値は1630円、時価総額は9470億円に達した。そのなかで、豊洲から住吉までの有楽町線と、白金高輪から品川までの南北線の延伸計画が進んでいる。2030年代半ばの開業を目指し、国と東京都が株式の半数を保有しながら、公共性と民営化の両立を図る挑戦が始まった。鉄道収入が減少傾向にあることが懸念される中、株主還元や新線建設の戦略が、未来の公共交通に大きな影響を与えることになる。

ロンドン地下鉄の教訓

南北線延伸計画(画像:東京都)
南北線延伸計画(画像:東京都)

 東京メトロの株式上場は、公共性の維持と経営効率化を両立させるという野心的な試みだ。しかし、公共交通の民営化が必ずしも成功するわけではない。果たして東京メトロの上場はどのような結果をもたらすのだろうか。この問いに答えるために、他国の事例を見てみよう。

 公共交通の民営化の結果は、国や地域によって大きく異なる。例えば、英国のロンドン地下鉄の事例は、民営化の難しさを示している。2003年、ロンドンでは運営を公共機関が続ける一方で、施設の建設と維持をパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)という形で民間が行う制度が導入された。

 この制度はインフラと運行を分ける特殊な形態だったが、コスト管理の失敗によって早々に破綻し、2010年には元の公共主体の制度に戻された。この失敗例は、公共交通における官民連携の難しさを浮き彫りにしている。

 一方、成功例として挙げられるのが香港のMTR(Mass Transit Railway)だ。2000年に民営化されたMTRは、鉄道事業と不動産開発を

「一体化」

させた経営モデルを確立した。不動産収入を運営費に充てることで経営の安定を実現しているが、この成功は香港の高い人口密度という特殊な環境による部分が大きい。

 東京メトロは、これらの事例とは異なる独自のアプローチを取っている。公共部門の影響力を一定程度維持しながら、民間の資金と経営手法を段階的に導入する民営化を目指している。この手法が成功するかどうかは、

・公共性の維持
・経営効率化

のバランスをどう取るかにかかっている。また、東京メトロは香港MTRのように不動産開発との一体化も模索しているが、東京の都市構造や法規制の違いを考慮する必要がある。

 さらに、ロンドンの事例から学べることは、インフラの維持と運営の一体性の重要性だ。これらの海外の事例は、公共交通の民営化には「正解」がなく、各都市の特性に合わせたアプローチが必要であることを示している。

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