大阪・堺市「LRT計画」はなぜズッコケたのか? 市民不在で進み、市民によって葬られた“残念結末”を振り返る

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大阪府堺市には複数の鉄道路線が走っているにもかかわらず、東西を結ぶ鉄道はなく、バスに頼ってきた。東西交通路の計画は100年も前から浮かんでは消えてきた。

堺市の財政危機

阪和線(画像:写真AC)
阪和線(画像:写真AC)

 しかし、当時の堺市の財政状況は非常に厳しいものだった。報道では

「福祉関連や借金返済の経常経費が高い水準にある中で、財政危機に陥る可能性がある」(『朝日新聞』2005年9月22日付朝刊)

との指摘もあったように、別会計を含めれば市全体の収支は実質赤字に陥っていた。にもかかわらず、当時の堺市では東西鉄軌道以外にも、阪神高速大和川線の建設負担や堺東駅前の再開発など、財政規模を大きく上回る大型公共事業が同時多発的に計画されていた。

「埋立地に整備されるサッカー・ナショナルトレーニングセンターは67億円、新たに基本設計費が計上された文化芸術ホールも68億円に上る」(『読売新聞』2008年2月27日付朝刊)

という状況だった。

 加えて、シャープの液晶工場誘致に際しては、府市合わせて約768億円もの巨額の補助金支出や税の減免が行われる予定で、これも大きな財政負担となることが懸念された。本来は市に収入をもたらすはずの工場立地が、逆に財政を圧迫する皮肉な結果となっていたといえる(『読売新聞』2009年7月24日付朝刊)。

 こうした状況のなかで、東西鉄軌道計画の財政的な疑問は日増しに大きくなっていった。事業の必要性や採算性への懸念が高まる一方で、市の体力から見れば明らかに過大な投資計画は、到底市民の理解を得られるものではなかった。財政規律を乱すリスクを冒してまで事業を強行することへの批判が急速に高まり、東西鉄軌道計画は行き詰まりを見せ始めたのである。

 さらに計画が拡大を続ける一方で、市民への説明は後回しにされてきた。結果、市民の反発は極めて強いものとなった2009(平成21)年2月に開催された住民説明会では

「多額の事業費への懸念や工事による生活環境への影響を心配する声が上がり、地元の理解が得られない状況となった」(後述『阪堺線存続の歩みと東西鉄軌道計画の中止について』より)

という意見が出た。沿道の商店主からは、工事にともなう荷さばきへの支障や売り上げ減への懸念も示された。また、過去の区画整理事業の苦い経験から、

「道を整備すれば人が来ると市は言ったが、街は寂れた」
「LRTができたら人が来る根拠はるのか」

といった声も上がった。長らく希求されていた東西路線にも拘わらず、その計画の不透明さに市民がことごとく反発したのである(『読売新聞』2012年5月30日付朝刊)。

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