中国が台湾を軍事侵攻? よくある台湾有事論が「単なる妄想」である3つの理由
有事論そのものが胡乱

台湾有事論は空中楼閣なのである。台湾海峡は構造的に安定しており、それを覆す危険因子はない。
さらにいえば、台湾有事論の内容そのものも胡乱(うろん。真実かどうか疑わしいこと)である。
米議会公聴会で開陳された2027年危機説は無根拠である。米海軍大将の発言も「私の勘によると」程度の中身でしかない。しかも「有事は30年以内、もしかすると10年以内、ひょっとすると6年以内」でありイカサマ預言の類いでしかない(*1)。
そもそも、震源である米国における台湾有事論そのものの解像度が低い。日本安全保障セクターが「米国では」と
「出羽守(でわのかみ。欧米の習慣や事柄を引き合いに出して、日本を貶めるような言動をする人)」
として持ち出す論拠そのものが怪しい。
最近ならアンドリュー・クレピネビッチ氏の「The Big One」がそれである(*2)。これは同氏がハドソン研究所所属の肩書で米外交誌『フォーリン・アフィアーズ』誌に投稿した記事である。
内容は単なる中国脅威論でしかない。具体的には中国による台湾回収や南沙領有権問題を中国の領土拡張主義と断じている(*3)。これは。
・台湾海峡問題
・中国外洋進出の経緯
を全く無視した主張である。
米国の台湾有事論の水準はその程度でしかない。まず台湾問題の構図を承知していない。あるいは、経緯を知らない米国民相手に中国脅威論をあおる。もしくは日本保守政治の要求による日本世論操作として、猿田佐世氏(弁護士、新外交イニシアティブ代表)のいう「ワシントン拡声器」をしているかである。
*1:2021年3月9日の米上院軍事委員会公聴会におけるダビッドソン海軍大将の発言より。詳細は筆者記事で説明している。文谷数重「六年以内に『台湾有事』」『軍事研究』667(JMR,2021年10月)pp.p.182-193.
*2:Krepinevich,Andrew F 「The Big One」『Foreign Affairs』103.1(Council on Foreign Relations,2024 Jan/Feb) pp.104-118.
*3:日本になぞらえれば、北方領土の返還要求や、竹島や尖閣の領有権主張、沖ノ鳥島を起点とした排他的経済水域(EEZ)主張について「日本の領土拡張主義」と論じる乱暴な主張でしかない。