「今だけ、金だけ、自分だけ」 バブル崩壊以降の欧米型「成果主義」を克服し、日本のお家芸“人材育成”を取り戻せ
近年、「人的資本経営」が注目されているが、日本では長らく「企業は人なり」が信条だった。今こそ、日本が得意としてきた人材育成を重視する伝統を「取り戻す」チャンスだ。
日本は元来人的資本経営

近年「人的資本経営」が注目されているが、欧米ではともかく、日本では昔から「企業は人なり」といわれてきた。人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大化することで中長期的な企業価値の向上を図る経営手法である。
モビリティ業界では、トヨタ自動車が創業の翌年に豊田工科青年学校を開校し、その翌年から養成工教育(現・トヨタ工業学園)を開始するなど、人は自社で育てるという考え方を体現している。
当時、豊田英二氏(1913~2013年)は
「人間がモノをつくるのだから、人をつくらねば仕事も始まらない」
と人材育成の必要性を説いた。このように、トヨタをはじめとする日本企業、とりわけ製造業は、「ものづくりは人づくり」という考え方を常に持ち続けてきた。
「成果主義」の爪痕
しかし、転機はバブル崩壊後に起こる。
その後、「失われた30年」といわれることとなる日本の低成長時代への突入を受け、日本企業の人事に当時、欧米型といわれていた
「成果主義」
の導入が相次いだ。もっともらしい理屈とともに「これこそが先端的な人事」とはやったが、今となってみれば、人材育成に企業が投資をする余裕がなくなって、
「成果を挙げた人にだけお金を与える」
となっただけなのを、きれい事で粉飾していたようにも思える。
人材育成は長期的視野がなければできない。育成投資が会社に利益として返ってくるのは気が遠くなるような時間がかかる。この余裕が企業になくなってしまった。