「盗んだバイクで走り出す」 尾崎豊の名曲『15の夜』に出てくるような非行少年を近年見かけなくなったワケ

キーワード :
,
「盗んだバイクで走り出す」という歌詞で知られる尾崎豊の約40年前の名曲『15の夜』。最近の若者は盗んだバイクで走り出しているのだろうか。

組織犯罪と感覚的な安心感の悪化

昭和のバイクのイメージ(画像:写真AC)
昭和のバイクのイメージ(画像:写真AC)

 しかし、こうした問題にもかかわらず、バイクや自転車の窃盗は一向に減らなかった。新聞報道によれば、1990年代には非行少年に加え、大規模な窃盗団による組織的なバイク窃盗が増えていた。プロの窃盗団は、白昼堂々とバイクをトラックに積み込み、業者に売るという大胆な手口だった。

 前述の『警視庁の統計』によると、家屋に侵入しない窃盗の総数は2002(平成14)年がピークだった。一方、バイクの窃盗ピークは2000年、自転車の窃盗ピークは2002年である。つまり、尾崎豊の歌のあと20年近く、バイクの窃盗は増え続けていたのである。しかし、2000年代初頭から状況は一変し、2002年をピークに家屋に侵入しない窃盗の総数は減少に転じた。バイクの窃盗も減少に転じた。

 この時期にどのような動きがあったのか。

 2000年代前半は、長引く経済不況の影響もあり、治安に対する不安感が高まっていた。たとえば、内閣府が2004(平成16)年7月に実施した「治安に関する世論調査」では、「ここ10年で自分や身近な人が犯罪に遭うかもしれないと不安になることは多くなったと思うか?」という質問に対して、80.2%の人が「多くなったと思う」と答えた。

 このなかで、2000年代初頭から「体感治安」という言葉が頻繁に使われるようになった。体感治安とは、治安状況に対する人々の感覚的・主観的な認識のことである。つまり、感覚的な安心感の回復が求められていたのである。

 その結果、防犯灯や防犯カメラの増設、地域住民によるパトロールなどの防犯活動が全国各地で熱心に行われるようになった。犯罪件数を減らすことも警察当局の優先事項だった。

 2003年、警視庁は体感治安を「3年以内に、10年前の水準に戻す」ことを目標に、職務質問などの取り組みを強化し始めた。防犯カメラや民間の自警団の充実は、プライバシーや個人の自由の侵害を懸念する声もあったが、目に見えて犯罪を減らす効果は確かだっただろう。

全てのコメントを見る