いまや激レア? スーパーカーのドアをまとったトヨタ「セラ」という異例の量産車【連載】90’s ノスタルジア・オン・ホイールズ(11)
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1990年代は、バブル崩壊後も未来への夢と希望に満ち、国内の自動車産業も活況を呈していた。本連載では、当時のクルマ文化を探るとともに、興奮を読者に甦らせる。
異例の量産車

1990(平成2)年3月、バブル経済が全盛期だったまさにそんな時代、トヨタからとても量産車とは思えないモデルが発売された。その名はセラである。
人気の売れ筋コンパクトカーだったスターレットのメカニカルコンポーネンツを流用したコンパクトスポーツ。ルックスは数年前に発表されていたコンセプトカーの「AXV-II」に酷似していた。
そのルックスを簡単に説明すると、ボディの上半分にガラスを多用した航空機のようなキャノピースタイルというもの。これだけでも量産車としては極めて異例であり、相当に目を引く存在だったことは間違いない。
しかしセラの特徴はそれだけではなかった。ドアが通常のものとは大きく異なる上方への跳ね上げ式、多くの場合「ガルウイングドア」と呼ばれていたデザインに極めて近かったのである。
ガルウイングとは「カモメの羽」を意味する英単語である。このスタイルのドアはヒンジ(クルマのドアとボディをつなぐちょうつがい)をルーフ側に設けていたのが技術的なポイントだった。こうしたデザインが登場した背景にあったのは、あくまで技術的な制約ゆえだった。
すなわち、量産市販車で初めて採用したといわれている1955年のメルセデス・ベンツ300SLの場合は、フレームにマルチチュ-ブラースペース構造を採用したことだった。フレームの上端がボディサイドに中心線上に近くなってしまったことから、通常のドアでは設置が不可能だったのである。