日産の苦悩 「ルノーEV新会社」への出資メリットは本当にあるのか? 技術流出の懸念も

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ルノーがEVとソフトウエア専門の新会社「アンペア」の設立を発表し、日産がそれに対して15%出資することを発表した。これはEV化の動向を象徴するひとつの出来事だといえる。

両社の狙いとアンペアの今後の展望

NACS(画像:テスラ)
NACS(画像:テスラ)

 このように、両社ともに10年ほど前は「リーフ」や「ZOE」で世界のEV市場をリードしていたが、現在は先行するテスラや比亜迪(BYD)などを追いかける立場となっている。さらには自動車のソフトウエア化が進展し、先行する他社に遅れずSDV(ソフトウエア定義車)開発を進めなければならない状況にもなっている。

 アンペアは自動車OEMから生まれた、先進的なソフトウエアを搭載した乗用EV(SDV-EV)を開発する世界初のEV&ソフトウエア会社となる。

・総従業員数:約1万人
・技術者:3500人

で、そのうち半数はソフトウエア専任者となる予定だ。2030年までに6車種のEVを開発し、欧州EV市場におけるプロフィット・プール(バリューチェーンで得られる利益の合計)の80%をカバーするセグメントに投入していく。

 具体的にはBセグメントの「Renault 5 Electric」「Renault 4 Electric」と、Cセグメントの「Megane E-tech Electric」「Scenic Electric」、その他未発表の2車種を予定している。

 さらにアンペアは、2031年に約100万台のルノーブランドEVの生産を計画し、今後10年間の年平均成長率(CAGR)は30%という急成長を見込んでいる。

 アンペアの経営権を握るルノーにとっては、グローバルで大きな販売台数規模を持つ日産と三菱自動車がアンペアに資本参加することで、アンペアで開発するEVおよびソフトウエア製品の市場シェア拡大を実現する重要なハブとなり、大きなメリットとなる。

 しかし日産と三菱自動車のメリットは薄いと見られ、逆にクアルコムやグーグル、そしてルノーが中国の吉利汽車(ジーリー)と共同で設立する低燃費エンジン会社「Horse(ホース)」などへの技術流出が懸念される。そうしたこともあり、三菱自動車は2023年8月7日時点においても、アンペアへの出資を決断できずにいる。

 日産もアンペアに約930億円出資するよりも、日産の企業戦略に沿った、より有望な企業との提携にその資金を活用した方が自社にとってメリットが大きいという声もある。しかしルノーとの「不平等条約」を解消できたことは日産にとって新たな一歩を踏み出すために必要だったことを考えると、一定程度前向きに捉えるべきだし、アンペアへの出資による自社メリットを最大化するために、今後の参画の仕方を模索していくべきである。

 むしろ日産や三菱はルノーのように、経営環境の変化を敏感に察知し、柔軟かつスピーディーな企業経営のやり方を学び、他社の取り組みに振り回されるのではなく、自ら“仕掛けて”他社を巻き込んでいくような、経営戦略の策定が必要であるといえるだろう。

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