「お金払わない」「会社に電話するぞ」 タクシードライバーに浴びせられるカスハラ暴言の数々、8月1日“名札廃止”の裏側事情とは
名札の廃止
国土交通省は8月1日、タクシー・バスの運転手の車内での氏名掲示義務を廃止した。名前が表示されなくなることで利用者の不安が生じる可能性もあったが、正当なクレームとは異なる、いわゆる“いやがらせ”が増えすぎたため、監督機関が対応に乗り出した。
現代はスマートフォンにより写真や動画を簡単に撮影できる時代だ。ささいなことでも、利用者はすぐに写真を撮ってくる。乗務員もプライバシーを尊重されたいし、これらの行為にストレスを感じる。
ネット社会は予測できない。筆者の経験からいえば、名前はイニシャルでも所属班でも十分であり、実名を公表することは好ましくない。実名は付きまといの危険性も考えられる。仕事へのモチベーションが低下するだけだ。
例えが異なるが、阪神球団の公式ツイッターは、カスハラ対策として
「選手を誹謗(ひぼう)中傷するようなヤジや侮辱的な替え歌は絶対にやめるようお願いします」
と呼びかけている。人格否定は球団自体のマイナスイメージに影響するとの判断からだ。
タクシーやバスの乗務員にも社員教育が行われている。筆者が入社した四十数年前も接客業の基本を学んだ。問題行動をする乗務員は「始末書」を提出し、その後すぐに退職を勧告される仕組みだ。名札の廃止は「過剰なサービス」の一環であり、これは時代の流れだ。
驚きの経験
筆者も10年前、強烈なカスハラ体験があった。
問題のある利用者はどこにでもいる。夜の繁華街で営業する際は注意が必要だ。酒に酔った利用者はときどき非常識な態度を取ることがある。
相手はある職業の局長で、夜の11時少し前、築地(東京都中央区)のはずれの料亭から乗車した。小雨が降っていた。局長の部下が新橋で先に降り(逃げたのかもしれない)、局長はひとりになってからさまざまな難題を投げかけてきた。
「おい、どうして玄関まで傘をさしてこなかったんだ。サービスが悪いぞ。俺はこんなに濡れただろ」
などなど。料亭の仲居さんが傘をさしていたが、筆者も傘をさしたり、ドアーサービスを怠ったりしたので、接客のセオリーとして謝るしかなかった。しかし、局長は過激な言葉を続け、
「お前の会社に電話してクビにするぞ」
と執拗(しつよう)に主張してきた。