「赤字ローカル線は即廃止」 ネットにはびこる“採算論者”に決定的に欠けた公共的思考

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ローカル線廃止が想定するデメリットについての考察は軽視されがちだ。廃止は日本の鉄道事業にとって本当に正しい選択なのだろうか。

バス転換が招く事故リスク

旧熱塩駅を活用した日中線記念館。土曜休日はタクシー以外の公共交通機関でアクセスできないことが課題(画像:大塚良治)
旧熱塩駅を活用した日中線記念館。土曜休日はタクシー以外の公共交通機関でアクセスできないことが課題(画像:大塚良治)

 このように、バスが鉄道の代替交通として十分に機能していない事例が見受けられるにもかかわらず、バス転換を模索する動きは止まらない。

 コロナ禍で鉄道事業者が大きな打撃を受けたことも、こうした動きを後押しする。確かに、バス転換で鉄道時代よりも赤字は削減されるが、鉄道廃止によって

「社会的損失」

が発生する懸念がある。

 バス転換は公共交通の利用者減を招き、

「自動車への依存度」

を高める傾向にある。

 自動車交通量の増加による事故発生も懸念される。やや古いデータだが、交通事故は1億台キロあたり

「118.4件」

発生している(国土交通省道路局「平成15年度 道路行政の業績計画書」)。

 日高本線鵡川~様似間に当てはめて、検討してみよう。同区間では2015年の運休前、1日14本+鵡川~静内間の下り1本が運行されていた。全列車1両編成として計算すると、年間列車走行キロは61万1594km。これと同じ距離のバスが運行された場合、およそ1年に

「約0.72回」

の事故が発生するリスクが生じている可能性がある。

 一方、2021年の鉄道では、列車走行キロ12億5319万7000km(『鉄道輸送統計年報』2020年度・2021年度)に対して、人身障害が256件(『令和4年版交通安全白書』)が発生した。鉄道が存続していた場合、およそ1年に約0.12回の事故が発生するリスクがあった。

・バスの場合:17か月に1回
・鉄道の場合:8年に1回

それぞれ事故が発生する計算となる。鉄道を存続する意義は、地域の活力維持だけではないはずだ。

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