「赤字ローカル線は即廃止」 ネットにはびこる“採算論者”に決定的に欠けた公共的思考

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ローカル線廃止が想定するデメリットについての考察は軽視されがちだ。廃止は日本の鉄道事業にとって本当に正しい選択なのだろうか。

ローカル線廃止論の台頭

日高本線廃止後も残る橋(絵笛~浦河間)(画像:大塚良治)
日高本線廃止後も残る橋(絵笛~浦河間)(画像:大塚良治)

 コロナ禍で日本の鉄道事業者は、大きな打撃を受けた。

 JR本州3社(東日本・東海・西日本)および大手私鉄がこれまで行ってきた、都市部などの高収益路線の利益を「赤字の地方圏路線(いわゆるローカル線)の維持」に活用する「内部補助」が限界を迎えている。

 その結果、採算の合わないローカル線の廃止を進める必要性が言いはやされるようになった。

 一方、ローカル線廃止により想定されるデメリットの検討は軽視されがちだ。果たして、廃止は、日本の鉄道事業にとって正しい選択といえるのだろうか。

いざ北海道浦河町へ

浦河町の位置(画像:OpenStreetMap)
浦河町の位置(画像:OpenStreetMap)

「日本の公共交通をこれ以上衰退させないためにも、協力します」

旧日高本線沿線の北海道浦河町・池田拓町長は取材受諾の返答を寄せた。筆者(大塚良治、経営学者)は急きょ、浦河町を訪ねることにした。

 夜、沼ノ端駅(苫小牧市)で静内行きバスに乗り換えた。日高本線の鵡川駅(むかわ町)前でようやくひとりが下車し、4人が乗車した。ここから日高本線の廃線区間と並行する。乗客数は平均でも数人程度で、車内は筆者以外すべて中高生であった。

 翌朝、静内(旧静内駅、新ひだか町)から浦河町を目指す。駅舎はバス待合室兼観光案内所として、ほぼそのまま活用され、駅舎裏手には線路とホームが残されていた。

 午前6時25分発の浦河老人ホーム前行きバスは、私ひとりだけを乗せて出発した。バスの車窓からは廃線跡とともに、競走馬となる日高産サラブレッドの牧場が見えてくる。日高地域の牧場も、牧場主の高齢化や後継者不足で人手不足に悩んでいるようだ。人手不足に悩むのは、交通産業だけではない。

 その後、途中停留所から主に中高生の乗車が続き、浦河町に入って乗車人員は約20人に。静内から1時間25分、浦河町役場で下車した。バス停の前に、旧浦河駅が跨線橋とともにたたずんでいた。「ありがとう日高線」と書かれた横断幕も残されている。浦河町がまとめた「『旧浦河駅周辺整備基本構想の素案』を基に、今後の方向性に関する協議がちょうど開始されたところ」(池田町長)という。

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