「赤字ローカル線は即廃止」 ネットにはびこる“採算論者”に決定的に欠けた公共的思考

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ローカル線廃止が想定するデメリットについての考察は軽視されがちだ。廃止は日本の鉄道事業にとって本当に正しい選択なのだろうか。

JR北海道の100%株主はJRTT

旧浦河駅。「ありがとう日高線」の横断幕がそのまま残る(画像:大塚良治)
旧浦河駅。「ありがとう日高線」の横断幕がそのまま残る(画像:大塚良治)

 JR北海道の100%株主は鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)で、JR四国とJR貨物の全株式も保有する。

 JRTTは未上場JR3社の株式を貸借対照表上、流動資産項目の「処分用有価証券」として計上している(2023年3月期)。JRTTは、

「当機構は発足時より、独立行政法人会計基準の適用を受けることとなり、その一環として、旧国鉄職員年金の支払い財源に充てることになっている未上場JR3社の株式について、『処分用有価証券』として流動資産に計上することとした。会計監査でも適正性が認められている」(経営自立推進・財務部財務管理課)

と説明する。しかし、2003(平成15)年10月のJRTT発足まで、前身の国鉄清算事業団および日本鉄道建設公団は、JR株式を「関係会社株式」として計上していた。

 現時点で、未上場JR3社の上場は未定で、売却が決まるまで、JRTTが保有を継続する。また、JRTTの理事長が、未上場JR3社の株主総会に出席し意見を述べるほか、経営支援を行うなど、経営に深く関与している。

 これらの状況をみれば、「処分用有価証券」としての会計処理は、未上場JR3社の上場が決定した段階で行うのが適正ではないだろうか。JRTTの会計処理ひとつをとっても、株式売却収入確保による国庫への貢献が優先され、

「鉄道網の維持が考慮外に置かれている」

実態が浮き彫りになっている。

池田町長の疑問

日高地域広域公共バス車窓からの日高産サラブレッドの牧場風景(画像:大塚良治)
日高地域広域公共バス車窓からの日高産サラブレッドの牧場風景(画像:大塚良治)

 ローカル線の維持に新たな「試練」が訪れた。

 2022年7月25日に、国土交通省「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」が『地域の将来と利用者の視点に立ったローカル鉄道の在り方に関する提言~地域戦略の中でどう活かし、どう刷新するか~』(以下、提言)を公表したことがひとつの契機となる。

 提言は、JR旅客会社などを念頭に、「危機的な状況のローカル線区」について、「特定線区再構築協議会(仮称)」(2023年10月施行の「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」改正法では「再構築協議会」と表記)を設置する目安として、1日輸送密度1000人未満などの基準を示した。

 ローカル線の整理が不可避となっている状況に対して、前出の池田町長は疑問を呈する。

「コロナ前2018年度のJR北海道の営業赤字は、JR東日本の営業利益の10%強にすぎない。もし、JR東日本の利益の一部をJR北海道の支援に充当できる仕組みができれば、同社の路線網は十分維持できるはずだ。鉄道の価値は、観光や地域の振興などを踏まえて総合的に判断されるべき性質のもの」

と主張する。

 提言は「鉄道を運行する公共政策的な意義が認められる場合、(中略)上下分離化等、沿線自治体のより積極的な形での関与が望まれる」(34ページ)とも述べるが、人口減少などにより財政状況が厳しい地方自治体には、ハードルが高い。

バス転換の実態

浦河町役場を出発する日高地域広域公共バス(JRバス)(画像:大塚良治)
浦河町役場を出発する日高地域広域公共バス(JRバス)(画像:大塚良治)

 鉄道の代替交通は、バスが中心に検討されることが基本だが、バスは鉄道時代よりも乗車人員を減らすことが多い。

 例えば、旧鹿島鉄道(石岡~鉾田26.9km)の代替バス「かしてつバス」の2022年度乗車人員は25万7135人(石岡市都市建設部都市計画課提供資料)で、鉄道時代の2005(平成17)年度約77.6万人の

「約3割」

の水準にとどまる。

 また、代替バスの廃止も発生している。旧国鉄第1次特定地方交通線に指定された日中線(喜多方~熱塩11.6km)を例にとると、1984(昭和59)年4月1日の廃止後、代替バスが運行を開始したがそれも廃止された。

 2012年10月1日以降は、多方市主体の予約型乗り合い交通(デマンド交通)に切り替えられたが、平日のみの運行である。

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