「キャブレター式バイク」はなぜ消えたのか? ノスタルジックで魅力的も、バイクに迫る世知辛い規制の山
厳しい排ガス規制

キャブレター式バイクの衰退に拍車をかけたのは、厳しい
「排ガス規制」
である。
2007(平成19)年、欧州で従来より規制値を大幅に下げた「ユーロ3」が設けられた。正式名称は「ユーロ自動車排出ガス基準」あるいは「欧州排出ガス規制」の第3段階で、欧州連合(EU)の執行機関欧州委員会が定めた。世界的な排ガス問題を解決するべく、1992年の「ユーロ1」を皮切りに、段階的にステップアップをするというものである。
ユーロ3で従来よりも顕著に変わったのは、排ガスの試験方法だった。かつては暖機運転時に測定していたものが、コールドスタート(エンジンをかけた直後)から測定する方法に変わった。これにより、エンジンスタート時は燃費が悪いキャブレター式バイクは、認可されない不利な状況となった。
この流れは日本にも影響していく。1999年に「平成11年度排出ガス規制」が設けられ、以前よりも厳しい排ガス規制となり、キャブレター式バイクが軒並み生産終了へと追い立てられた。
それでも人気のロングセラーモデルはインジェクション式へ改良されたり、日本の排ガス規制に沿った日本仕様モデルを生産・発売されたりなど、国内主要メーカーはそれぞれ異なる対応を取った。
しかし、2006年には第4段階となる「ユーロ4」に移行。それに合わせて日本の排ガス規制も、2016年にユーロ4と同等のものに改正された。内容も、さらに厳しい排ガス規制値が設けられたほか、バイクのエンジン状態をコンピューターから診断する
「ODB(車載式故障診断装置)」
という装置が義務付けられた。これにより、以前から販売していた日本仕様荷モデルも改良せざるを得なくなり、導入が難しいモデルは軒並み販売終了となってしまった。
そして2020年、欧州でさらに厳しい排ガス規制を設けた「ユーロ5」と、日本でもそれに準じた新たな排ガス規制が設けられた。
新たに設けられた規制値をクリアするには、マフラーや排出ガスの浄化装置を取り付ける必要があった。また、エンジンも改良しないといけないほどの厳しい規制値が設けられたほか、ODBのバージョンアップ版である「ODB-2」の搭載も義務付けられた。
日本における規制値の一部を紹介すると、バイク1台あたりの一酸化炭素の上限値は、「平成17年度二輪車排出ガス規制」時で2.7g/kmだった。しかし「令和2年度二輪車排出ガス規制」(ユーロ5と同等)は
「1.33g/km」
にまで抑えなければいけなくなっている。
このように、度重なる欧州排出ガス規制の影響は、キャブレター式バイクを生産終了に追いこんだだけでなく、フラッグシップモデルが軒並み生産終了に追い込まれるほど、大打撃を与えたのである。