アメリカ流「戦争方法」とは? 物資投入とロジスティクスの力がもたらす戦略的優位性をご存じか
「イギリス流の戦争方法」から「アメリカ流の戦争方法」へ
こうした「ビザンツ流の戦争方法」を参考としながら、やはり現状維持国たるイギリスの国家戦略のあるべき姿を強く唱えたのがリデルハートである。
リデルハートによれば、伝統的にイギリスはヨーロッパ大陸での敵国を無力化するため、大規模な陸軍力派遣の代替策として海軍力を中核とする経済封鎖に依存したのであり、また、この戦略がイギリスに成功と繁栄をもたらした。
つまり、リデルハートが主唱する「イギリス流の戦争方法」とは、本質的にはイギリスが誇る海軍力をもって適用される経済的圧力のことであり、この戦争方法の究極目的は、ヨーロッパ大陸での敵の国民生活に対して経済的困難を強要することにより、その戦意および士気の喪失を図るというものである。
さらには、海軍力を用いることで敵国本土とその植民地の間の交易を妨害し、また、小規模な水陸両用作戦によって植民地そのものを奪取することにより、敵の戦争資源の枯渇を図ると同時に自らの資源確保にもつなげるというものであった。
第1次世界大戦の悲惨な状況を受けてリデルハートは、イギリスは今後ヨーロッパ大陸では大国間の勢力均衡に多少の影響力を行使しつつも、基本的には不関与――あるいは限定的関与――政策にとどまるべきであり、その間にグローバルな次元での大英帝国の維持および拡大を図るべきであると主張した。
また、仮に不幸にもヨーロッパ大陸において、第1次世界大戦に続いて再び大国間で戦火を交える事態が生起すれば、イギリスはその「伝統」に回帰し、主として海軍力(そして第1次世界大戦以降、新たに発展を遂げつつあった空軍力)と財政支援をもってヨーロッパ大陸の同盟諸国に対する責務を果たすべきであると唱えた。
こうしたリデルハートの戦略思想が、海洋国家としてのイギリスの文化を色濃く反映したものであることはいうまでもない。
そしてこうした国家戦略を支えるために重視されたのが、やはりインテリジェンスとロジスティクスであった。イギリス本国と世界各地の植民地(自治領)をつなぐ通信および輸送網の必要性が強く認識されていたからであり、大英帝国の覇権に基礎には世界中に張り巡らされた「海底通信ケーブル」と港湾ネットワーク(「真珠の首飾り」)があったといわれるゆえんである。
これは、今日のアメリカ、さらには中国の地政学的思考にも共通する。