アメリカ流「戦争方法」とは? 物資投入とロジスティクスの力がもたらす戦略的優位性をご存じか

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アメリカ軍の戦い方は、人的犠牲を最小限にとどめるために大量の物資を投入して戦争の勝利を追求するとの基本方針で一貫している。

「アメリカ流の戦争方法」

ラッセル・ウェイグリー『アメリカ流の戦争方法』(画像:Indiana University Press)
ラッセル・ウェイグリー『アメリカ流の戦争方法』(画像:Indiana University Press)

 伝統的にロジスティクスの重視を掲げるアメリカ軍の戦い方は、人的犠牲を最小限にとどめるため――このためにも医療を含めたロジスティクスへの同国の資源投資は顕著である――に大量の物資を投入して戦争の勝利を追求するとの基本方針で一貫している。

 事実、アメリカの歴史家ラッセル・ウェイグリーは、彼の古典的な名著『アメリカ流の戦争方法』で、こうした「アメリカ流の戦争方法」の基礎となるものの存在とその伝統の根強さを指摘したが、この点については国際政治学者サミュエル・ハンチントンも同様の見解であった。彼は以下のように述べている。

「アメリカの軍事エスタブリッシュメントは、同国の地理、文化、社会、経済、そして歴史の所産であり、それらを反映したものである。(中略)・アメリカ国民をドイツ人、イスラエル人、さらにはイギリス人のようなやり方で戦争を戦うよう教育できるとのロマンチックな幻想によって足をすくわれてはならない。そうした幻想は反歴史的であるばかりか、非科学的である」(Samuel P.Huntington, American Military Strategy, Policy Paper 28 (Berkeley: Institute of International Studies, University of California, Berkeley, 1986), p.33)。

 また、ハンチントンによれば、「端的にいってアメリカの戦略は、政治的にも軍事的にも同国の歴史や組織に比例したものでなければならない。それらは、国家の必要性に応じたものばかりではなく、アメリカという国家の強さや弱さを反映したものである。この両者を認識することから、真の意味での理解が始まるのである」。

 例えば、アメリカの空軍力重視志向は、アメリカ国民の科学技術至上主義という文化の反映である。実際、空軍力の運用を中核とするアメリカの国家戦略と軍事戦略は、今日まで1世紀以上にわたって同国が採用し続ける基本方針であり、航空機が数多く戦場に登場し始めた第1次世界大戦以降、同国が関与した戦争や紛争にはいずれも、空軍力の優勢が重視され、かつ、それが実践されてきた事実が顕著にうかがわれる。

 もちろん、こうした志向には常備軍に対するアメリカ国民の一般的な認識、とりわけ常備陸軍力に対する国民の忌避――今日では考えられないが――が色濃く反映されている。

 さらにアメリカは、これを効果的に運用することによって人的被害を極小化できると共に、短期間の戦いの可能性が高まり、敵の政治および軍事中枢を大規模かつ正確に破壊できると期待しているため、とりわけ空軍力を重視する。

 こうして、アメリカの文化を基礎とした空軍力を自らの軍事力の中核に据える「アメリカ流の戦争方法」が確立されてきたのである。

 もとより、「アメリカ流の戦争方法」とはこうした空軍力重視だけにとどまる概念ではない。実際、アメリカの国際政治学者エリオット・コーエンは、「アメリカ流の戦争方法」の際立った特徴として次の八つを挙げている。

 すなわち、

1.歴史に対する無関心
2.技術開発の様式と技術志向的な問題解決
3.忍耐力の欠如
4.文化的差異に対する無理解
5.大陸国家的な世界観と海洋国家としての位置付け
6.戦略に対する無関心
7.遅れがちではあるが大規模な軍事力の行使
8.政治の忌避

である(エリオット・A・コーエン(塚本勝也訳)「無知の戦略?――アメリカ、1920~1945年」ウィリアムソン・マーレー、マクレガー・ノックス、アルヴィン・バーンスタイン共編著『戦略の形成』中公文庫、2019年、下巻)。

 一方、イギリスの国際政治学者コリン・グレイは、「アメリカ流の戦争方法」には次のような12個の特徴が認められると指摘する。

 それらは、

1.非政治的
2.非戦略的
3.反歴史的
4.問題解決型あるいは楽観的
5.文化的に無知
6.技術に依存
7.火力の集中
8.大規模
9.極めて通常型
10.忍耐不足
11.ロジスティクスの分野では優秀
12.犠牲者に敏感

である(Colin S.Gray, “The American Way of War: Critique and Implications,” in Anthony D.Mc Ivor, ed., Rethinking the Principles of War (Annapolis, MD: Naval Institute Press, 2005)、コリン・S・グレイ(大槻佑子訳)「核時代の戦略――アメリカ、1945~1991年」『戦略の形成』下巻)。

 興味深いことに、こうした議論に共通する点は、伝統的なアメリカのロジスティクス重視政策である(下線を参照)。

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