富裕層はなぜ「豪華客船ツアー」を好むのか? いまや「永住権」を取れる船もあった!
富裕層向け「分譲型クルーズ船」登場
実はコロナ禍以前から、世界ではクルーズ船が人気を博していた。国土交通省の報告によると、コロナ前の2019年におけるクルーズ船での来日外国人数は、約215万人。2024年に出港予定である、
132泊しながら世界一周するリージェント セブンシーズクルーズ社の「ワールドクルーズ」も、約7万3500ドル(発売当時の為替レートで約800万円)~という高額な値段であるにもかかわらず、わずか3時間ほどで完売する人気ぶりを見せた。
世界で高級クルーズ船が人気を集めるなか、2002年にはもはやマンションと同等といっても過言ではないような
「分譲型クルーズ船」
まで誕生している。その名はバハマ船籍のクルーズ客船「ザ・ワールド号」で、総重量が4万3524t、全長が196mという規格外の大きさを誇る。
この船の最大の魅力は、毎年の航路決定がオーナーたちの投票によって決定できる点だ。船側からいくつか航路スケジュールが掲示されたのち、住民側の代表者で議論し、最終的には全住民による投票で決まる。年間100か所以上の停泊地でどこでも乗り降りできるうえに、何日滞在してもOK。
船内は165室の分譲レジデンスとなっており、最小の「オーシャン スタジオ2(31.4平方メートル)」でも、料金はおよそ180万ドル(約2400万円)で、別途年間管理費がかかってくる。最もグレードの高い客室となると、数億円レベルに達する。
ただしクルーズ船の物件を購入できる条件として、「総資産が最低1000万ドル」など厳しい条件や審査がある。ただ、このような特定の客層しか入手できないクルーズ船が生まれた経緯として、明治学院大学の教授・森本泉氏は
「富裕層が社会における責務から逃れるために、ザ・ワールドのような恒常的なオフショア生活を求め、回避し続けたいのだろう」
と論文で推察している。たしかに、現実から目を背けて非日常を味わいたい人にとっては、クルーズ船での生活がうってつけかもしれない。
このようにかねて世界的には需要が高まっていた居住型クルーズ船だが、日本ではクルーズ船ツアーは高いというイメージが浸透しており、頻繁に使うものではなかった。土木計画学研究委員会が、宿泊を含めたクルーズ客船観光未経験の20~60代の男女1000人を対象に、「参加したことない理由」をアンケート調査したところ、男女のどちらも半数近くが
「値段が高いから」
と答えた。
こういった背景もあってか、2013年にプリンセス・クルーズ社は1泊数万程度で気軽に利用できる日本発着の国内ツアーを発表。同社を皮切りに、各社が低価格の国内ツアーで新規顧客を取り入れ始めた。日本のクルーズ業界は世界と比べて後れを取っているものの、2023年はコロナ流行前よりも需要があると見込まれている。