多摩ニュータウンと田園都市 よく似た場所なのに、片方だけが「人気エリア」になった理由

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会社員の父と主婦の母。そんな「近代家族」の形成は、近代化が進んだ世界各国で見られる。しかし、それと電鉄の多角経営が結びついた例は日本以外に類を見ない。現代日本人の「幸せ」や「豊かさ」に、鉄道会社はどのような影響を及ぼしてきたのだろうか。

近現代の幸せモデルは「偽り」だったのか?

家族連れに人気のレジャースポットのイメージ(画像:写真AC)
家族連れに人気のレジャースポットのイメージ(画像:写真AC)

 他人事のようにここまで書いてきたが、筆者(嶋理人、歴史学者)自身、多摩田園都市の東急の分譲地に長年住み、子どもの頃は東急の水泳教室に通い、東急の電車やバスで通学通勤し、東急のスーパーやデパートで買い物をした。

 東急のインターネットを利用し、あまつさえ近年では「東急でんき」だの「東急セキュリティ」だのまで導入された(導入したのは家を建てた親であるが)。

 つまり私は模範的電鉄沿線民として人生の大半を過ごしてきた。その人生が素晴らしく幸福だったかはともかく、決して不幸だったとは思わない。それを「偽りの幸せ」と切り捨てることは、私自身の一部を切り捨ててしまうような気さえする。

 むしろ、売り物の「幸せ」キットには「ほんとうの幸せ」はないのだ! と覚醒したつもりになって、雲をつかむような幻を追いかけてしまうよりは、電鉄の「幸せ」モデルはまだしも「ほんとうの幸せ」の土台くらいにはなってくれているように思う。

 鉄道だけに、地に足のついた「幸せ」の手がかりは提供してくれるだろう。だからこそ多くの人がそのモデルに従っているのである。

・主要参考文献(文中に挙げたものを除く):
井田泰人編著『鉄道と商業』晃洋書房、2019年
老川慶喜『小林一三 都市型第三次産業の先駆的創業者』PHP研究所、2017年
落合恵美子『21世紀家族へ 戦後の家族体制の見かた・超えかた』(第4版)有斐閣、2015年
角野幸博ほか『鉄道と郊外 駅と沿線からの郊外再生』鹿島出版会、2021年
George W. Hilton & John F. Due “THE ELECTRIC INTERURBAN RAILWAYS IN AMERICA” Stanford University Press, 2000(初版は1960)

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