「LRT脱線事故」が起きても、宇都宮市民が全然批判的じゃない理由
「地域の新交通」以上の可能性も

試運転の開始直後に事故が起こったことに対して、地元では驚きの声があがっているものの、なぜか批判的な声はない。筆者(弘中新一、鉄道ライター)は数人の宇都宮市民に話を聞いてみたが
「試運転で問題が明らかになって、むしろよかった」
という感想が多く、むしろ開業に向けた期待が大きかった。
事故から一週間がたった11月26日、JR宇都宮駅東口の「まちびらき記念式典」が開催されているが、ここでもLRT見学会が催されている。事故直後にもかかわらず会が問題なく実施されているあたり、期待度がわかる。なお、駅東口には新施設が相次いで開業している。
しかし、このLRTを
「地域の新交通」
としてだけ期待するのは、もったいない。というのも、LRTを軸とした同地域の交通再整備は、公共交通の
「脱炭素化の大規模実証実験」
という側面も持っているからだ。
LRTの導入によって脱炭素化が進むのは当然だが、同時に路線バスでも同様の動きが起きている。宇都宮市内を走る路線バスを運行する関東自動車では、2030年までに市内の3営業所で電気バス158台を導入し、保有車両の7割を電気バスに置き換える予定だ。
電気バスは環境に優しいことだけでなく、ディーゼル車に比べて部品点数が少ないメリットもある。ただ、車両価格がディーゼル車よりも高額だ。そのため、民間企業での取り組みは困難とされていたが、国の実施する「グリーンイノベーション基金事業」に加えて、宇都宮市も支援を表明したことで実現にこぎ着けた。現時点では、全国で最大規模の導入だ。
また同事業では、2023~2024年は中国製車両を購入するものの、それ以降は、国産への切り替えを予定している。国産電気自動車を生産するいすゞ自動車と日野自動車の合弁会社ジェイ・バス(石川県小松市)は宇都宮市に工場を持っているため、車両の運用だけでなく、生産も兼ねる脱炭素化の先進都市として宇都宮市は注目される可能性もあるのだ。