「不手際のおわびにジュース代もらった」 SNSで話題の「タクシー美談」に現役ドライバーが感じたうすら寒い業界事情

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先日、あるタクシー美談がツイッター上で話題になった。しかし、手放しで礼賛できない事情が、タクシー業界にはあった。

ツイッターでタクシー美談が人気に

タクシー(画像:写真AC)
タクシー(画像:写真AC)

 先日、タクシードライバーの“粋”な振る舞いがツイッター上で話題になった。投稿者がタクシーに乗ったところ、道が混んでいることを理由に、ドライバーが目的地に早く着きそうな迂回ルートを選んで走った。しかし、正規ルートと比べて到着時間は大して変わらなかった。投稿者が運賃を支払った後、ドライバーはおわびの気持ちとしてジュース代を渡した。その心遣いに投稿者は感動した、という内容だった。

 このことは、関西発やわらかニュースサイト「まいどなニュース」によって「客「感動した」 迂回ルート使うも近道できず謝罪&ジュース代、タクシー運転手の心遣いが話題」というタイトルで記事化された。投稿者はそのなかで、ドライバーの心遣いについて、

「別にお金を返してほしいとは思わなかったのですが、今までセコい運転手に当たることが多かったので、タクシー運転手にもすてきな人がいるんだなとうれしく思いました」

とし、また「セコい運転手」については

「目的地付近で『この辺で止めてください』といっても、メーターが上がるまで進んで、上がった瞬間停車する。このパターンがとても多いです」

と回答している。

 確かにセコいドライバーに当たったことのある投稿者にとって、感動的な出来事だったに違いない。業界のイメージアップにもつながるし、現役ドライバーでもある筆者(二階堂運人、物流ライター)もうれしい限りだ。

 ただ、今回のことがそれに該当するかどうかは分からないが、似たような美談の裏には大抵「そうせざるを得ない事情」もあるのだ。

美談的対応の裏側

タクシー(画像:写真AC)
タクシー(画像:写真AC)

 ドライバーは運転のプロだが、ときには道を間違えたり、不注意を起こしたりする。そんなとき、こちらの非を潔く認めて、運賃をまけることもある。

 また、ドライバーに責任がなくても、不具合の原因が乗客にあっても、ことを荒立てないために運賃をまけることもある。なぜなら、昨今はどんないわれでもクレームにつながりかねないからだ。これは、いわばドライバーなりの「対策」なのだ。

 タクシー業界は旧来のマイナスイメージを払拭(ふっしょく)するため、接客対応に神経質になっている。その結果、クレームを起こしたドライバーは会社からペナルティーを課せられ、収入に影響が出ることもある。よって、会社・ドライバーともに美談とされる対応には厳しい態度を示している。

 こうした事例を一度でも作ってしまうと、運賃の減額を

「当たり前」

だと思う乗客が出てきてしまう。ドライバーのその場しのぎの美談的対応は、かえってリスクがあるのだ。

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