「不手際のおわびにジュース代もらった」 SNSで話題の「タクシー美談」に現役ドライバーが感じたうすら寒い業界事情

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先日、あるタクシー美談がツイッター上で話題になった。しかし、手放しで礼賛できない事情が、タクシー業界にはあった。

ドライバーを惑わす曖昧な言葉

タクシー(画像:写真AC)
タクシー(画像:写真AC)

 業務中、乗客に行き先を尋ねると「~の方まで」といわれるときがある。例えば「六本木の方まで」といった具合だ。この「~の方まで」がやっかいなのだ。

 目的地は六本木ではなく、六本木までのルートの途中にある。六本木まで行くルートはいくつもあるため、その選択によっては乗客の目的地を通過しない。そういうときに限って、ルートを指定せずに「任せる」との一点張り。こちらが選択したルートを告げても、まるで反応なし。そして、しばらく車を走らせていると、突然

「どのルートで行ってるんだ」
「このルートじゃ目的地に着かないだろ」
「迂回するんじゃないのか」
「約束の時間に間に合わないだろ」

などと騒ぎ出す始末だ。

 こちらのルート確認をわざと無視したのかどうかは定かでないが、自身の不注意を棚に上げ、責任をドライバーに押し付け、運賃の減額、ときには迷惑料を請求してくることもある。もちろん、その申し入れを突っぱねるドライバーもいるが、ほとんどのドライバーはクレームの恐怖ゆえ、なんだかんだで対応してしまう。

 ほかにも、

「取りあえず真っすぐ」

というものもある。このような曖昧な指示に、ドライバーは常に気を使っている。なかには、これに味をしめた常習者もいる。また、SNSなどには「タクシーに安く乗る方法」として、このようなことを広めようとする者さえいるのだ。

「お客さまは神様だ」という言葉

タクシー(画像:写真AC)
タクシー(画像:写真AC)

 確かに、

・道を間違えたり
・良かれと選択したルートが迂回ルートだったり
・こちらの過失で普段より運賃が高くなったり
・約束の時間に間に合わなかったり

して、乗客に迷惑をかけることはある。運転のプロである以上、非はこちらにある。ただ、悪意のない行為でも、結果として悪意でやっていると勘違いされることもある。

 そのような事態をなるべく招かないように、会社はドライバーに対して教育を行っている。具体的には、

・シートベルトの装着喚起
・ルートの確認
・行き先の復唱

などの徹底だ。こうすれば、ドライバーは毅然(きぜん)とした対応をしやすくなり、また一番のトラブル防止策にもなりえる。

 今やドライブレコーダー搭載の時代だ。全ては記録されている。乗客だけではなく、ドライバーにも同じことがいえる。クレームが寄せられても、ドライバーに落ち度のないものは不問になることも増えた。

 声が大きければ、何でもかんでもまかり通る風潮はそろそろ終わりにしたい。乗客のなかには自ら

「お客さまは神様だ」

と胸を張る者がいるが、それはサービスを供給するこちら側の言葉であって、乗客自身がいう言葉ではないだろう。

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