タクシーのチップ、今でも渡す人は多いのか? 現役ドライバーが見た、キャッシュレス時代の粋人とは
タクシー業界の内情を知る現役ドライバーが、業界の課題や展望を赤裸々に語る。今回は、乗客からの「チップ」について。
信じられない額のチップをもらった運転手

とはいえチップは普通、ほんの小銭であることが一般である。しかし、信じられないような額のチップを手にしたドライバーも業界にはいる。
筆者の同僚のKさん(67歳)は、人柄温厚、話が面白いことで定評のある男性だ。筆者が納金室で「どう、今日の稼ぎは」と軽くあいさつすると、舌をペロッと出し「カボチャの客ばかり、パッとしねぇな」などとべらめえ口調で笑う。
カボチャとは交通系Suicaの隠語だ。小林さんは数年前、高額のチップをもらったことで業界内で有名になった人でもある。その額、45万円。
いきさつはこうだ。
朝、帝国ホテルから高齢の外国人夫婦が乗ってきた。ふたりとも上品な感じ。行き先は成田国際空港だった。
大きなスーツケース2個とボストンバックが2個。Kさんはその荷物をトランクに丁寧に収めた。高速道路をいつもよりゆっくり走行した。
Kさんは終始無言。目的地が近づくと、男性の方が財布から札束を取り出し、茶封筒に入れ替えているようだ。そして降り際に、茶封筒をポンポンと叩き「サンキュー、ユー、チップ、プリーズ」というようなことを話しかけてきたという。
Kさんは意味が分からず「サンキュー、サンキュー」とだけ返答したという。後でその厚めの封筒の中身を見て、腰が抜けるほどビックリ。
「え…?」。1万円や5000円札、1000円札が無造作に入っていて、数えると45万円もあった。客は帰国するにあたって、外貨両替が面倒だったのか、使い残した日本円を全部Kさんに渡していったのだ。
Kさんの接客が、夫婦の日本滞在最後の良い記憶として残ったのなら、タクシー業界のひとりとして筆者もやはりうれしく思う。