「自宅にいながら船を操縦」 船員不足に悩む海運業界に差し込んだ「自動運航船」という名の光

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輸出入の99%超を海運に頼っている日本。そんななか、注目されているのが自動運航だ。いったいどのようなメリットがあるのだろうか。

給与水準の問題ではない

トラックドライバー(画像:写真AC)
トラックドライバー(画像:写真AC)

 なぜ、トラックドライバーが不足しているのか。

 それは、他の仕事と比べて給与水準が低いからである。さればこそ、トラックドライバーの給与を増やすべきだとの議論がある。

 では、船員はというと、この議論は基本的に当てはまらない。他の仕事よりも給与水準が高いからである。それでもなお人手不足になる最大の理由は、「乗船中は家に帰れない」という海運独特の働き方にある。

 外航海運であれば半年以上、内航海運であっても3か月程度は乗船する。その間は家に帰れないが、下船後にまとまった休暇が与えられる。内航海運であれば、

「3か月乗船/1か月休暇」

が基本のサイクルだ。毎日家に帰ることよりも、給与水準や長期休暇の取得を重視する人にとっては魅力的な職場といえよう。

 ただ、そのような職場を好んで選ぶ人は減少傾向にある。結果として、船員になりたい人、船員を続けたい人と、海運を維持するために必要な人数との間でギャップが生じているのである。

自動運航船の実用化は抜本的な解決策

コンテナ(画像:写真AC)
コンテナ(画像:写真AC)

 自動運航船の実用化は、この船員不足の問題を根本から解決してくれる。もちろん、最終的には完全に無人での運航を期待したいところだが、その手前にある遠隔操船であっても十分に有効だ。なぜなら、船員は

「家にいながらにして船を操れるようになる」

からである。当然、乗船中は家に帰れないなどという問題はなくなる。

 加えて、遠隔操船であれば、運航状況に応じて業務に従事する船員数を柔軟に変更できる。

「入出港時や荒天時は船員を増やす」
「外洋を通常運航中は船員を減らす」

といった運用が可能となれば、船員の総労働時間を減らせるはずだ。

 船員のための居住スペースが不要になることも大きい。長期の航行を想定した外航船であれば、ジム、バスケットボールコート、カラオケルームなどの娯楽スペースも設けられている。その分を積載スペースに回せば、より多くの貨物を運べるようになる。ひとつの貨物あたりの輸送費やCO2排出量を削減できるわけだ。

 世界にはいまだに海賊が存在しており、外航船が襲われることもあるが、船員が乗っていなければ人命を失う心配はない。現代の海賊は、船員を拉致しての身代金目的での襲撃が多いことを考えると、被害に遭いにくくなる可能性もある。

 つまるところ、自動運航船の実用化は船員の労働環境を改善するだけではない。海運の効率性や生産性を広く高める価値があるといってよいだろう。

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