DMVで鉄道ファン誘引も 赤字は30年連続、徳島「阿佐海岸鉄道」に漂う一抹の不安
リピーター確保へ官民連携組織

問題はどうやって、訪れた乗客をリピーターにするかだ。乗客の多くが鉄道ファンで、目当てはDMV乗車。乗り心地は悪くないが、病みつきになるような類いのものではない。沿線にある観光地や自然の魅力でひき付けないと、一過性に終わってしまう不安が残る。
沿線には、海陽町のサーフィンの中心地・海部川河口やダイビングスポットの竹ヶ島海中公園、海上アスレチックを楽しめる東洋町の白浜海岸、迫力満点の自然がある室戸市の室戸岬など潜在能力が高い観光地が並ぶ。だが、どれもまだ知る人ぞ知る存在。全国的な知名度は低く、観光開発も十分に進んでいない。
徳島市の中心部からは車やJR四国の牟岐線で約2時間。高速道路は整備されておらず、列車の運行本数も1時間に1本程度しかない。高知市からだと車で約3時間かかる。こちらは直通列車も通っていない。交通の便の悪さも観光開発の足を引っ張っている。
海陽町の1950(昭和25)年の人口は約2万1000人だったが、2020年国勢調査で約8400人まで、東洋町の1955年の人口は約8900人だったが、約2200人まで減少した典型的な過疎自治体。標準的な地方税収額を行政事務の必要経費で割って自治体の財政力を示す財政力指数は、
・海陽町:0.19
・東洋町:0.13
しかない。税収で経費の2割もまかなえないわけで、とても大規模な財政支出は望めない。
このため、地元では阿佐海岸鉄道など官民が連携した観光地域づくり法人「四国の右下観光局」が2018年に設立され、観光資源の磨き上げや新たな旅行スタイルの確立を地道に進めている。四国の観光推進組織・四国ツーリズム創造機構の設立にも参画し、四国観光のネットワーク入りを目指している。
好調な出足のDMVを地域振興につなげるには、こうした地道な努力が実を結ぶしかない。金も人もないなかで地元住民らの懸命の模索が続いている。