ガソリン高騰でも衰えぬ中高年! 40代以上の9割が「ドライブデート好き」と回答、“クルマ黄金期世代”が支える週末需要を考える
世代で異なる車への価値観

若い世代と中高年層とでは、車というものに向ける眼差しがずいぶんと違っている。若い層にとって車は、通勤や日々の買い物といった日常をこなすための移動手段であり、効率の良さや便利さといった基準で天秤にかけられやすい。
とりわけ都市部を見渡せば、鉄道が隅々まで発達し、カーシェアリングや配車サービスといった代わりの手段もいくらでもある。使う頻度がそれほど高くなければ、わざわざ自分で車を抱え込む理由は薄くなるだろう。こうした意識の開きがどこから生じるのかを考えていくと、連絡方法の移り変わりと、それぞれの世代が過ごしてきた乗り物文化の歴史が浮かび上がってくる。
かつて昭和の時代、デートの待ち合わせといえば駅前の時計台などで行うのが定番だった。今のように連絡を簡単に取る方法がなかったからこそ、車は相手との距離をぐっと縮めてくれる特別な場所として機能していた。若者向けの情報誌『スコラ』が1988(昭和63)年1月28日号で発表した調査によると、女子大生の26%が男性の魅力の条件に「クルマ所有」を挙げていたという。車がなければ「約4回に1回は無条件でフラれる」という、今思えば冗談のようでありながら、当時の若い男性にとっては切実な空気がそこにはあった。
1989(平成元)年に発行されたデートマニュアル本『東京クルージング・デートブック』の帯には、
「クルマを飛ばしてアーバンからサバーバン(注:郊外)を元気いっぱい遊びまくろう!」
「ダッシュボードに常備のスーパー・デートバイブル」
と記されていた。当時はデートの計画を立てるその手前に、いつも車が不可欠だった。たとえば当時、中央区勝どきに誕生したウオーターフロント系の複合店舗「パイク・ファクトリー」は、日産の個性的なモデルである「パオ」や「エスカルゴ」が店頭に並び、異国の音楽が流れる若者たちの聖地のような場所だった。今でこそタワーマンションが立ち並び、地下鉄で気軽に足を運べる場所だが、当時は鉄道のインフラがなく、車を持たない人間にとっては立ち入ることすら難しいエリアだった。
世の中の好景気も手伝って、ホンダ「プレリュード」や日産「シルビア」、トヨタ「ソアラ」のような格好の良い2ドアクーペが「デートカー」として爆発的な人気を呼び、街中ではBMW 3シリーズやメルセデス・ベンツ 190Eといった高級な輸入車も、一種のステータスとして扱われていた。
1990年代に入りバブルが弾けた後も、車で出かけたいという思いは根強く残り、トヨタ「セルシオ」や「アリスト」の中古車がもてはやされたり、日産「フィガロ」のようなレトロな車、あるいはスズキ「カプチーノ」といった軽のオープンスポーツカーが登場するなど、好みに合わせた多様な広がりを見せる。
当時の若者たちが必死になって格好の良い車を手に入れようとしたのは、他愛のない見栄のためだけではなかったのだろう。社会が大きく変わりゆく不透明な空気のなかで、意味のある物にお金を使い、自分の立ち位置をまわりに伝え、社会と繋がろうとする彼らなりの真剣な表現方法でもあったのだ。
だが、その後の長い経済の停滞に合わせるように、車に向ける視線は使い勝手の良さへと大きく傾いていく。狭い2ドアクーペから室内が広いRVやミニバンへ、そして現代では日産「エクストレイル」やトヨタ「ハリアー」、レクサス「NX/RX」に代表される、街乗りからレジャーまでこなすSUVへと主役が移り変わった。
この歩みは、ポケベルから携帯電話、さらにはスマートフォンやSNSへと連絡のインフラが発達し、出会いや付き合いのあり方そのものが手軽で効率的になった歴史とも重なり合っている。端末ひとつでいつでも緊密に繋がれる環境で育った若い世代にとって、車にスマートさと実用性を求めるようになるのはごく自然なことだろう。
一方で中高年層は、車をただの道具として見るのではない。あの頃の懐かしい原体験も心のどこかに抱きながら、週末の時間をいかに豊かに過ごすかという視点でハンドルを握っている。目的地へ行くための枠組みを超えて、ふたりの結びつきを深めるおしゃべりの場として、車は今も機能している。
事実、前述の調査で最初のデートでドライブを提案されたとき、男性の75.1%が「嬉しい、ぜひ行きたい」と歓迎するのに対し、女性は35.0%にとどまっており、そこには40.1ポイントの大きな開きがある。女性の55.1%が
「初デートでは緊張してしまう」
と答えているように、逃げ場のない空間だからこその戸惑いも見える。しかし、寄せられた声の中に
「上がり症で緊張するタイプですが、車の運転はお互いに横の関係で前を向いているので、緊張せずリラックスして話せるので好きです」(千葉/50代/女性)
とあるように、正面から視線がぶつからないからこそ、カフェでの対面以上に本音や将来の夢を語り合いやすいという一面もあるようだ。
「面と向かって喋るカフェデートより、何気ない会話をしながら楽しめるドライブデートがより好きになった」(愛知/40代/女性)
「ドライブすると、いつまでも一緒にいたくなるので困ります」(大阪/50代/女性)
「車中で将来の事とか話しをした」(山形/60代/男性)
といった言葉が並ぶ。車内という閉じられた空間がもたらす心の変化。それらが引き起こすお出かけの需要は、若者の車離れという一言だけでは到底こぼれ落ちてしまうような、深い市場の厚みを形作っているのだ。