なぜドライバーの「9割超」は日常点検を行わないのか? 車の状態が見えにくくなる現代、広がる新しい点検とは
EVシフトによる車重増でタイヤ負荷が高まるなか、日常点検の実施率はわずか9.5%にとどまり、街のタイヤの28%に整備不良が見つかるという危機的な実態が浮かび上がった。人手不足に悩む整備現場のサバイバルと足回りの安全をかけ、最新AIやクラウドを活用した診断体制の主導権争いが本格化している。
デジタル診断の普及と覇権争い

「AIみぞみるくん」に代表されるAIを使った点検の仕組みは、整備現場の確認作業を減らし、作業のばらつきを抑える助けになっている。実際に、岩手三菱自動車販売(岩手県盛岡市)や宮城三菱自動車販売(宮城県仙台市)の案内でも、この仕組みを使ってタイヤを調べる様子が紹介されている。
こうした技術の活用は、整備工場に限った話ではない。大手タイヤメーカーの住友ゴム工業(兵庫県神戸市)は、スマートフォンのカメラで撮影したタイヤ画像から、すり減り具合や偏った減りがないかをAIで調べる仕組みを開発した。販売店などが撮影した画像をもとに、溝の残り具合の目安や、中央や片側だけが減っている状態を判定し、段階ごとにわけて表示する。
最近では、スマートフォンで写真を撮るだけで摩耗の状態がわかる一般向けの診断アプリも出てきている。整備工場だけでなく、一般の利用者でも自分の車の足回りを把握できる環境が整いつつある。これまで整備士の経験や目視に頼っていたタイヤの判断が、データを通じて数値として示され、共有できる情報へと変わり始めている。
こうした流れは、車が販売された後の市場で、点検の仕組みをめぐる主導権の動きとも見られる。現場向けの専用端末は、ディーラーの業務の流れに組み込むことで顧客をつなぎ止める狙いがある。一方でタイヤメーカーがスマートフォンアプリを広げるのは、手間を減らして一般利用者まで取り込み、自社製品を選んでもらう直接の接点を作るためである。
現場の作業を効率化する流れと、顧客とのつながりを保とうとする流れが、それぞれの考え方の違いとして表れ始めているのだ。