BYDが欧州「4拠点」へ接近――ステランティス工場再編が映す、「中国EV」の侵食圧力

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EV減速で欧州メーカーが30%もの過剰能力に喘ぐなか、BYDら中国勢がその遊休拠点を「市場アクセスの武器」として奪取し始めた。37兆円の投資で自立を期す欧州だが、現実は雇用のために主導権を明け渡す矛盾に直面。拠点の譲渡が産業主権の分離を招くという、自動車産業を根底から揺さぶる地殻変動の本質に迫る。

データ主権を巡る安保上の障壁

ニュー・オートモティブによる最新リポート(画像:New Automotive)
ニュー・オートモティブによる最新リポート(画像:New Automotive)

 欧州市場に切り込む中国勢の勢いを、かつて1980年代から1990年代にかけて日本メーカーが現地生産を広げた状況になぞらえる見方がある。しかし、当時の欧州統合という追い風のなかで日本企業が迎え入れられた土壌と、現在の中国企業が置かれた地政学的な環境とでは、事情が大きく異なっている。

 日本勢の進出は、同盟圏内での資本の動きとして扱われ、いくぶん寛容に受け入れられた。これに対し、中国製EVには安全保障の面から厳しい視線が注がれている。走行データの扱いや、部品供給網をどこまで引き継げるかといった難題が横たわっているからだ。今のEVは、スマートフォンのようなデジタル端末としての側面を強めている。誰が中身のソフトを動かし、どの国の供給網に頼るのか。その判断は、かつてないほど重い意味を持つようになっている。

 昔の日本メーカーは、長い時間をかけて地元の部品を使い、現地に馴染もうと努めてきた。一方で今の中国勢は、自国で構築した高度な供給の仕組みを、拠点ごとそのまま持ち込む傾向がある。デジタルの進化と国際情勢の緊張が重なり合うなか、この産業は国家の戦略と切り離せないものとなった。現地に拠点を持つことの重みは、以前のようなお金の動きという枠組みを超え、まったく別の色を帯び始めている。

 調査会社のニュー・オートモーティブによる報告によれば、欧州各国とスイスはEVを取り巻く環境を整えるため、約2000億ユーロ(約37兆円)もの巨額投資を打ち出している。中身を見れば、バッテリーの供給網に1090億ユーロ、車両づくりに600億ユーロ、充電インフラに230億から460億ユーロを投じるという。

 自分たちの力で立ち上がろうとするこれほどの投資が進む一方で、足元では中国資本の手を借りて生産を続ける動きが広がっている。それぞれの国の政府は、地域で働く人々の暮らしを守らなければならないという重圧にさらされている。今ある設備を動かし続けるための現実的な手立てとして、中国資本の力を借りる道を選び始めているのだ。

 ここでは、目の前の拠点をどう守るかという課題と、欧州の産業が誇りをどう保つかという問いが、複雑に絡み合っている。政治が求める目先の成果と、経済が突きつける長い目での変化。このふたつを両立させることは難しく、現実には働きの場を確保することが優先されつつある。中国勢の進出は、欧州のメーカーを刺激するだけでなく、地域の暮らしを下支えするひとつの手段として、じわりと根を張りつつある。

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