BYDが欧州「4拠点」へ接近――ステランティス工場再編が映す、「中国EV」の侵食圧力
遊休拠点転用による市場浸透策

複数の報道によると、BYDは拠点の取得に向けて、ステランティスなどと協議を重ねている。イタリア中部のカッシーノ工場は、ここ数年、稼働率の低迷が取り沙汰されてきた場所だ。BYD側は明言を避けているものの、イタリアをはじめとする欧州各地で資産の調査を進めており、すでに多くの現場を視察したとみられる。
一方で中国の吉利汽車(ジーリー)は、スペインにあるフォードの拠点内、車両組立工場「Body3」の取得で合意したという。両社は、ジーリーの土台となる技術(GEAプラットフォーム)を使い、フォード車としてハイブリッド車やEVを生産する枠組みについても話し合いを続けている。この工場は2022年に主要な車種の生産を終えてから、動きが止まったままだった。もともとあった生産資産に他社の息吹を吹き込むこの流れは、つくる側と形づくる側の新しい連携のあり方を物語っている。
中国勢にとって、欧州にすでにある拠点は市場に入り込むための足がかりとなる。彼らの狙いは、EUが課す追加関税をかわし、現地での生産体制を整える時間を短縮することにある。工場をゼロから建てるには3年から5年はかかるが、今ある設備を転用すれば1年ほどで動かし始めることができる。事実、BYDが2024年3月にブラジルのフォード拠点を引き継いだ際は、わずか16か月で最初の車をラインオフさせている。この実績こそが、何よりも市場への投入速度を重んじる彼らの姿勢を裏付けている。
こうしたスピード感に裏打ちされた体制づくりは、開発のみならず、市場にどれだけ早く浸透できるかを左右する。既存の拠点を手に入れることは、関税によるコストの膨らみを抑え、ブランドを根付かせるための有効な手立てとなる。さらに注目すべきは、取得後の運営について自律性を強めている点だ。
利益の管理だけでなく、ソフトウェアの更新やデータの扱い、部品調達の主導権を自らの手で握ろうとしている。EUの追加関税は輸入抑制を狙ったものだったが、皮肉にもそれが中国勢の直接投資を呼び込み、域内の生産枠組みが移り変わる速度を早めることとなった。