かつては「キューポラの街」――特急ゼロの埼玉60万都市が、賃貸ランキング“4冠独占”したワケ
埼玉県で賃貸需要が最も集中した街はどこか。答えは人口約61万人の川口市だ。2025年12月~26年2月のPVで全タイプ首位を独占。特急が止まらない駅でありながら、都心25分圏と抑制された家賃が生む“実利優先”の都市構造が、市場の選択を変え始めている。
生活利便性重視戦略と消費構造の転換

理想的な都市とは、職住が近接し、域内で経済が循環する自立した状態を指す。川口市が2023年4月に施行した
「大きな声で川口が大好きだと叫んでみませんか川口プライド条例」
は、住民の愛着を深め、高所得層を呼び込むための施策だ。子育て環境の整備も進み、2025年4月現在の認可保育所等は201施設に達した。行政は生活基盤の拡充を継続し、居住地としての価値向上を図っている。
周辺都市と比較すると、同市の戦略が明確になる。県内財政力1位の戸田市は物流網を背景とし、さいたま市の大宮駅周辺は広域交通の拠点としての地位を固める。これに対し、川口市は大規模な拠点化を目指すのではなく、生活の利便性向上に注力した。
特急停車や新幹線アクセスの確保は拠点には不可欠だが、市場が川口市に求めているのは、住居費の安さと都心への近さが生む生活の合理性だ。表面的な格付けよりも、日々の暮らしやすさを優先した判断が現在の評価に結びついている。
現状と理想の乖離(かいり)は、都市機能に変容を迫っている。2021年2月のそごう川口店閉店は、従来の百貨店型ビジネスが街の需要に適合しなくなったことを示した。その後、2025年5月31日に同跡地へ「ららテラス川口」がグランドオープンした事実は、消費の軸が日常の利便性へと移った証左といえる。共働き世帯が求める実利的なサービスへの転換が、ファミリー層を引き寄せる要因となっている。