成田空港用地「強制収用」を検討! 「流血の記憶」か、「アジアの競争力」か? 89.7%で止まる拡張計画、その先にある判断とは

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成田空港は発着50万回体制を目前に、用地確保89.7%という壁に直面する。残るわずか10.3%が全体を止め、全面供用は1年以上遅れる見通しだ。強制取得か対話継続か――過去511件の対立の記憶を背に、日本の国際競争力を左右する判断が迫られている。

交渉を動かす制度活用

東峰神社の塀(画像:写真AC)
東峰神社の塀(画像:写真AC)

 土地収用法の活用を検討する動きは、単なる物理的な強制執行への備えではない。実のところ、それは停滞した交渉をまとめ上げるための、きわめて実務的で経済的な手段という側面を併せ持っている。

 制度の枠組みをひも解けば、事業認定が下りて収用手続きが本格化すると、公共事業に伴う土地譲渡の税控除が受けられなくなるなど、地権者側には小さくない実務上の制約が生じる。千葉県の担当者が指摘するように、事業認定の決定をきっかけに、一転して任意の契約へと話が進む例は少なくない(『日本経済新聞』2026年4月2日付け)。これは、制度を無理やり土地を奪う道具としてではなく、あくまで交渉を前に進めるための「材料」として使いこなす判断といえるだろう。

 歴史を遡れば、1960年代の初めには畑一反あたり100万円という補償基準が示された。当時の国家公務員の初任給が2万円ほどだったことを考えれば、相場の4倍から5倍にものぼる破格の条件だ。この思い切った補償方針により、閣議決定からわずか数か月で地権者の8割が条件付きで賛成に回ったという経緯がある。

 今このタイミングで、法に基づく手続きの開始を公にすることには、地権者がこうした経済的な利点を確保できる「期限」を明示する意味がある。土地収用法を、いたずらに対立を深めるものではなく、地権者がより理にかなった選択をしやすくするための仕組みとして捉え直す。

 そうした視点の転換こそが、長く足踏みを続けてきた用地取得を動かす突破口になるのかもしれない。

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