成田空港用地「強制収用」を検討! 「流血の記憶」か、「アジアの競争力」か? 89.7%で止まる拡張計画、その先にある判断とは

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成田空港は発着50万回体制を目前に、用地確保89.7%という壁に直面する。残るわずか10.3%が全体を止め、全面供用は1年以上遅れる見通しだ。強制取得か対話継続か――過去511件の対立の記憶を背に、日本の国際競争力を左右する判断が迫られている。

工期短縮の選択

成田空港(画像:写真AC)
成田空港(画像:写真AC)

 今回の土地収用法適用を検討する動きは、かつて国が掲げた「強制的な取得は行わない」という方針を根底から見直す可能性をはらんでいる。この判断の是非は、何を優先順位の最上位に置くかによって、まるで見え方が変わってくる。

 まず、海外の主要空港との競争にこれ以上遅れを取らないことを重く見るならば、収用法の手続きを進める選択は理にかなっている。韓国の仁川国際空港をはじめとする競合が大規模な整備を終え、日本の航空需要を着実に取り込んでいるいま、受け入れ能力の不足は日本全体の損失に直結しかねない。

 成田の国際線旅客数が2016(平成28)年に世界18位まで後退したという事実は、かつての絶対的な優位が揺らいでいる現実を突きつけている。国土交通省の予測でも、2029年度には発着回数が現行上限の34万回に達する見込みだ。この空白を埋めるためには、法に基づいた着実な事業完了が求められるという理屈だ。

 一方で、地域との関係性や、血を流した過去の経緯を重く見るならば、強硬な手段はかえって事態をこじらせる。1971(昭和46)年の代執行が残した教訓は、無理な用地取得が激しい反発を招き、結果として数十年単位で運営の足かせになるという点にある。

 もし今回、強い手段によって反対運動が再燃し、外部勢力が入り込むようなことになれば、1978年から2019年までに511件もの事件が起きた暗い時代に逆戻りするおそれも拭えない。仮に土地を手に入れたとしても、警備の負担が増大し、周辺住民との対立が解けなければ、空港の安定した運営は覚束なくなる。

 国としての競争力を守るために工期をねじ伏せるのか。それとも、将来の安定を見据えて地道な対話を貫くのか。どちらの価値に重きを置くかで、成田が進むべき道は大きく分かれる。唯一の正解が見当たらないなかで、いま成田が置かれた市場の荒波と、積み上げてきた対話の重み。その両方を天秤にかけた、極めて難しい判断が迫られている。

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