「消えるドアハンドル」は進化か、退化か?――15人の犠牲者が問い直す安全の定義とは
次世代ドアハンドルの格納化

かつて国産車のドアハンドルといえば、薄い板状の取手を指先で持ち上げるフラップ型が当たり前だった。取手の下に手を差し込み、てこの要領で引き上げる。構造は簡素で、部品点数も少ない。量産しやすく、費用も抑えられる。出っ張りが小さいため、外観の邪魔をしないという利点もあり、長く標準の形として使われてきた。
やがて主流はグリップ型へ移っていく。取手を握り込んで開ける、いまでは見慣れた形だ。上下どちらからでも手をかけられ、力を入れやすい。体格や年齢に左右されにくく、扱いやすさの面で分があった。事故時にはロープやフックを引っかけて外から引き開けることもできる。救助のしやすさまで含めて考えると、実用面での安心感がある。海外メーカーがこの形式を長く採用してきたのも、そうした現実的な理由によるものだろう。
ここ数年、そこに別の流れが加わった。いわゆるフラッシュドアハンドル、格納式と呼ばれるタイプである。テスラやメルセデス・ベンツのSクラスが先行し、国内でも新型リーフが前席ドアに取り入れた。外から見ると取手は見当たらない。電子キーを持って近づくと、扉の面からすっとせり出してくる。走行中や駐車中は引っ込んだままで、表面は平らなままだ。
見た目の変化は小さいが、部品の中身は大きく変わっている。従来は金属や樹脂の単純な機構だったものが、センサーやモーターを内蔵した電動式に置き換わった。量産部品のひとつにすぎなかった取手が、電子制御をともなう高付加価値のモジュールへと姿を変えた格好だ。価格も上がるが、その分、差別化の余地が生まれ、利益率も取りやすい。ドアハンドルという小さな部位が、メーカーにとっては商品力を語る材料になりつつある。
なぜここまで手間をかけるのか――。背景には、外観の一体感を求める潮流と、空気抵抗を少しでも減らしたいという事情がある。電動化が進み、燃費や電費への目線が厳しくなるなか、わずかな凹凸も無視できなくなってきた。目立たない部品であっても、積み重なれば走行効率に影響する。取手の扱いも、その延長線上にある。
こうして見ると、ドアハンドルは形を変えながら、時代ごとの優先順位を映してきたことがわかる。使いやすさを重んじた時期があり、安全を意識した時期があり、いまは効率や商品性が前に出ている。格納式が選ばれ始めた理由も、その流れのなかにある。目立たない部品の変化だが、車づくりの考え方がにじむ部分でもある。