「消えるドアハンドル」は進化か、退化か?――15人の犠牲者が問い直す安全の定義とは

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外板と一体化する格納式ドアハンドルがEVで急拡大する一方、事故時に開かないリスクが浮上した。中国は2026年2月に規制を強化、市場は2035年に793億ドル規模へ――効率と安全のせめぎ合いを追う。

フラッシュドアハンドルが抱える課題

テスラ モデルY(画像:テスラ)
テスラ モデルY(画像:テスラ)

 外観をすっきり見せ、空気の流れも整えられる。フラッシュドアハンドルは、ここ数年で電気自動車(EV)を中心に一気に広がった。車体の面が途切れずにつながるため、先進的な印象が出る。メーカーにとっては、燃費や電費の改善にも効く部位であり、商品力を語るうえで都合のいい存在でもあった。

 ただ、その評価に水を差す出来事が続いている。

 中国では2024年4月、AITO M7が衝突後に炎上し、格納式のドアハンドルが動かず、乗員3人が車外に出られないまま死亡した。翌2025年10月には、シャオミSU7とみられる車両が同様に衝突後に火災を起こし、通行人が外から扉を開けようとしても開かなかったという。救助の手が届く距離にありながら、扉が壁のように立ちはだかった格好だ。

 多くの車種では、取手が電子的な施錠の仕組みと一体になっている。衝撃で電源が落ちれば、外側から操作する手段が失われかねない。普段は便利でも、事故時にはそれが裏目に出る。そうした懸念を中国当局も放置できなかった。2026年2月3日、新たな強制国家基準を公布し、救助者が物理的に取手をつかめる構造を求めるなど、技術面の条件を引き上げた。従来の造りを前提にしてきたメーカーにとっては、小さくない方向転換になる。対応が遅れれば、世界最大級の市場で販売の機会を失う可能性も現実味を帯びる。

 似た議論は米国でも続く。テスラ車の扉が緊急時に開かない問題は数年前から指摘され、米運輸省道路交通安全局がモデルYについて欠陥の可能性を視野に予備調査を進めてきた。ブルームバーグも電子制御式ハンドルの危うさを追い、扉の不具合が関わった死亡事故を2025年に集計している。過去10年に起きた十数件の事故のうち、少なくとも15人が、扉が開かない状態のまま命を落としていたという数字が残った。

 見た目の新しさや使い勝手を優先してきた結果、いざというときの脱出が確実かどうかという基本的な点が、あらためて問われている。これは品質の話にとどまらない。事故が重なれば法的な賠償や評判の低下に直結し、収益にも跳ね返る。安全性への不信は、企業にとって市場そのものを揺さぶる現実的なリスクとして、すでに表面化している。

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