「京成 vs JR」成田アクセス戦争の裏側――「隣のホームへ行くのに、なぜ改札を出るのか」という不条理、2社の分断が強いる「取引コスト」の正体
2025年に4268万を超えた訪日客を迎える成田空港。京成8000億円投資とJR東日本の広域網論理が交錯する現場では、単線区間の制約が増発・高速化の限界を固定し、利用者の利便性と国家資源の最適配分に影響を及ぼしている。
投資意欲の温度差
成田空港へのアクセスを考えると、京成電鉄が歴史的経緯も含め、成田路線を経営の中核と位置づけていることは明らかだ。
私鉄は事業エリアが限られており、経営資源を集中させた結果として、空港輸送が最大の収益源となっている。一方で、JR東日本は国鉄の分割民営化を経て広大なネットワークを抱えており、成田アクセスはその一部にすぎない。この違いは、両社の経営構造から必然的に生じる温度差といえる。
京成電鉄はすでに公表している中期経営計画「D2プラン」で、2040年代までに累計およそ8000億円を投じ、空港アクセスの強化を進める方針だ。計画には、課題となっている単線区間の複線化、駅の折返し機能改良、車両基地の拡張、留置線の増設が含まれる。加えて、約900億円を沿線の不動産開発や既存施設更新に充て、1650億円をバリアフリー化や自然災害対策に回す予定である。
こうした大規模投資の公表は、競合に対する強い意思表示の側面を持つ。長期間かかる埋没費用をあえて確定させる姿勢は、JR東日本に対して、空港アクセス市場での主導権を譲らないというシグナルとなる。京成による投資は、物理的な容量を先に押さえることで、他社の将来的な増発余力を制限する防御的な意味も帯びる。アクセスによる収益への寄与度が両社で大きく異なるため、共通の基盤で合意を作り、実務的な改善を進めることは容易ではない。
さらに、京成グループが都営地下鉄や京浜急行との直通運転を通じ、羽田や都心への利便性を高めて利用者を囲い込む動きには、自社の収益基盤を強化すると同時に、他社の投資意欲を抑え、市場における優位性を維持しようとする狙いが読み取れる。